人を殺したことを家族や友人にも打ち明けられず、罪の意識に苛まれる日々を送るかもしれない。
であれば今ここで死を選ばせてあげた方が彼のためになるのではないか。
本当にジェームズを説得して生き延びさせることが正解なのか悩んだはずです。
トマスと違いジェームズにはまだまだ余生がありますから、苦悩を長引かせるのは酷だと思ったのでしょう。
彼の意思を尊重して、自殺を手伝ったのだと考られます。
全てを無かったことに
無人島での出来事を知っているのは、もうジェームズとトマスしかいません。もしジェームズが死ねば、トマスだけが唯一の証人です。
トマスが口を閉じれば、真実を知る手立てはありません。いくらでも出来事を捏造できますし、全て無かったことにもできるはずです。
そうすれば自分だけでなくジェームズとドナルドも殺人者という汚名を被らなくて済みます。
彼らの名誉のためにも失踪扱いにしてあげたかったのかもしれません。
トマスの行方
無人島の男たち3人が謎の失踪をした実話をもとに、この作品は作られました。
ラストでただ一人生き残ったトマスも、地元に戻ることなく死を選んだと考えるのが妥当かもしれません。
ですがジェームズが死んだ今、トマスは金塊を独り占めできるのです。一生手にできない程の宝がある現実。
死の危険に遭い、仲間の死を見届けるという苦悩を与えられた対価として、金塊を手にしてもバチは当たらないのではないか。
そうトマスが考えたなら、彼は死を選んだでしょうか。
人間は欲深い生き物です。今までは若い2人がいたから自分の欲は伏せ、彼らを指揮する役目を果たしていただけかもしれません。
しかしその役目から解き放たれた時、トマスは自分の本来の欲と対面したはずです。
自分は一度死んだんだと考え、これまでとは違った新たな人生を歩む気になった可能性もあるでしょう。
船でどこか違う国へ行き、金塊を換金してひっそり暮らしていたかもしれません。
まとめ
海に囲まれた無人島で金塊を手に入れた3人。人を殺してまで得たその富は彼らを幸せにしませんでした。
漂流者と金塊を見つけた時に、そのまま海へ流してしまえば彼らは貧しいながらも幸せな人生を送れたと思われます。
しかし誰も見ていない環境は彼らの理性を狂わせたようです。
私達は他者からの視線に晒されているからこそ人間らしいさを保てているのかもしれません。
映画「バニシング」は、欲に支配された人間は決して幸福になれないことを訴えかける作品だといえるでしょう。