指導者と呼ぶべき立ち位置にいる彼が生き馬の目を抜くようにして成し遂げたかったことは何か?
それは結末が示すように政治に無関心な人達までをも巻き込んだ民衆の扇動を起こすことです。
つまりキム・ジョンナムは短期ではなく長期的な目線で見ての大逆転を狙って動いていました。
彼にとっては濡れ衣を着せられようが逃亡することになろうがそれ自体は小さなことです。
これこそがキム・ジョンナムが逃亡を繰り返してまで成し遂げたかった真意なのではないでしょうか。
最初の死者が与えた影響
本作は南営洞の対共分室にソウル大学の学生パク・ジョンチョルの死体が運ばれた所から始まります。
果たして彼の死は物語に、また登場人物達にどのような影響を与えたのでしょうか?
チェ検事を燃え立たせる
まずストレートな影響としてはチェ検事にジョンチョルの死の真相を暴いてみせると決意させたことでしょう。
パク所長に対して「対共なら何をやってもいいのか」と啖呵を切る所などはその怒りの表れとして象徴的です。
それもその筈、パク所長ら軍事政権並びにその関係者がやっていたことは拷問致死の隠蔽工作なのですから。
国家に携わっている人間が故意に殺人を合法化しているとなればこれは大きな問題となるでしょう。
まずチェ検事にこの拷問致死の隠蔽を解き明かすと決意させたことが最初の目立つ影響となります。
遺族の悲しみとサンサム記者の怒り
二つ目が当然ながらジョンチョルの遺族の悲しみ、そしてそれに伴い真実を暴かんとするサンサム記者の怒りの誘発です。
チェ検事がその正義感に火をつけたことがマスコミ関係者にも大きなムーブメントへの意欲を駆り立てました。
何故そこまでしたのかというと理不尽な国家の横暴で未来を担う個人の命を奪うことになるからです。
国家の大義名分で引き起こされる行為が個人の命を奪うという二度の世界大戦で経験したことをまた繰り返しています。
この辺りがしっかり「国家」と「個人」、そして両者を繋ぐマスコミと検事という立ち位置で繋がっているのが秀逸です。
看守のハン・ビョンヨンと姪ヨニを動かした
そしてこの死が国家側に属しながら民主化運動のシンパでもあったパン・ビョンヨンと姪ヨニを動かしました。
特にヨニは平和を好むごく普通の大学生であり、彼女は同じ大学生の死に感じる所があったのでしょう。
そんなヨニが叔父からキム・ジョンナムへ刑務所で得た情報を渡して貰いたいというのは気が引けます。
しかし、ヨニがその行動を起こしてくれたおかげで上述したキム・ジョンナムの暗躍へ繋がるのです。
このようにして、本作は一人の大学生の死が巡り巡って国家への反逆の狼煙への動きという影響を与えています。
決してキム・ジョンナムの暗躍だけが決め手ではなく、そこに至るきっかけや布石がきちんとあるのです。
デモに示された実情
そんな叔父の頼み事からヨニも学生運動・民主化運動へと関わっていくことになります。
しかし、彼女がイ・ハニョルの紹介で見た光州事件のドキュメンタリーは彼女を部屋から飛び出させました。
そこに示されていたデモの実情とは何だったのでしょうか?
無残に警察に殺されていく市民
ヨニはここにイ・ハニョルに匿われる形で学生と機動隊のデモから間一髪難を逃れました。