つまりピートはナタリーへの暴行と、マットの殺人を犯してしまっているのです。
ピートだけでない
ナタリーとマットが部屋にいる回想シーンで、ピートが入ってきました。
そこでナタリーやマットに対する暴行が行われますが、少なからずそこにいるのはピートだけではありません。
部屋にいたのはナタリーとマットを除いて5人。そこで大きな乱闘騒ぎになります。
調査を進めるため、ベンやジェーンがマットの職場である作業場に着いたとき、そこで顔中あざだらけの従業員たちがいました。
つまり、この従業員たち全員が犯人なのです。顔のアザはマットに殴られたことを示しています。
主犯格はピートですが、ナタリー事件にはこれほど多くの人が犯人として考えられるのです。
ピートに生きる力や意志はあるのか?
映画終盤で、犯人であるピートを山へ連れ出し、コリーは尋問しました。
そこでピートが殺されると思いきや、コリーはピートを逃がします。結局コリーの数十メートル先でピートは息絶えました。
それを見守るピートでしたが、逃がした理由とは何なのか、そして最後まで見送ることは何を意味しているのでしょうか。
ナタリーと同条件
ナタリーは、マットと一緒に暴行を受けますが逃亡します。身ぐるみもほとんどなく、額の裂傷と凍傷や骨折をしていました。
実はコリーがピートを山に連れてきたとき、ピートはこのような状態です。
- 大きな傷がある
- 足は凍傷を受け裸足
- 助かる道は10km歩いた先にある車道
これはつまり、ナタリーが死ぬ直前の条件と同じなのです。
そこには、ナタリーが感じた苦しさをピートにも与えようという意思があるでしょう。また、コリーにはもう一つの考えがあるようです。
ピートはどれだけ生きる力と意志があるか
結局ピートは数十メートル走ると、息絶えてしまいました。
コリーがピートを逃がす目的は、10km走ったナタリーと比べてみようということなのです。
それは、ジェーンに語るコリーの言葉からも分かります。
ここでは生き残るか、諦めるかしかない。強さと意志が物を言う。獲物になるシカは不運なんじゃなく、弱いんだ。
引用:ウィンド・リバー/配給会社:ワインスタイン・カンパニー
10kmも裸足で極寒の中を裸足で走り続け、肺出血で亡くなったナタリーをコリーは、強い女性だと語ります。
一方で、数十メートルしか走れないピートは、ナタリーに比べて「弱い」からすぐに死んでしまうのです。
コリーはこれを自分の目で確認したかったから、ピートを逃がし、最期まで見続けるのでした。
ナタリーの父親に伝えるため
ナタリーの父親の気持ちを、コリーは痛いほどに分かります。同じような境遇で娘を失っているからです。
映画ラストで、死に化粧をしたナタリーの父親とコリーが腰を下ろし、ナタリーの父親はコリーにピートの最期について聞きます。
哀れだった。チップに優しくな。俺たちほど打たれ強くない。
引用:ウィンド・リバー/配給会社:ワインスタイン・カンパニー
この言葉を届けるために、コリーはピートを最後まで見届けたのです。
ナタリーの父親は、事件当初コリーに対してだけ犯人が誰であろうと殺してくれ、ということを頼まれました。
つまりコリーはピートが「逃げ切ることはない」と思いつつ、あのような行動に踏み切っているのです。
それもこれも、同じ境遇になってしまったナタリーの父親のため。
コリーがピートを最後まで見届けるのには、これらのような理由があったからです。
ネイティブアメリカンの闇が暴き出された
本作のストーリーそのものは、フィクションではありながら、実際に起こっている事件や社会の闇でもあります。
『ボーダーライン』の脚本を務めるなど、テイラー・シェリダンが描き出すものは実際の世界にはびこる闇がテーマです。
本作においては、ネイティブアメリカンの実態が浮かびだされています。
『アベンジャーズ』でも本作でも、相手を仕留めるハンターとして役割を演じるジェレミー・レナーは、社会の矛盾すらもハントしたのです。