純粋な愛がありながら外で簡単に別の異性と遊んでしまう軽さが本作のリアルさであります。

障害がある恋は燃え上がるのか?

恋愛障害~どうして「普通」に愛されないのか?~ (光文社新書)

障害がある恋は燃え上がるといわれますが、ヴィクトルがズーラと演じた恋は盛り上がる所か寧ろ冷めていきます。

肉体関係に関しても最初こそ勢いがあり濃厚ですが、後半段々淡泊で味気ないものに変質していくのです。

なので帰ってきて捕まったときにはすっかりやつれきった顔立ちで、若き頃の精悍さは見る影もありません。

決して現実に歪められたからでも何でもなく、ただ一人の女を想い続けるだけの恋がしんどかったのです。

さりとて諦めることも出来ず、最後はもはや愛とすら呼べない何かへと変質していたのではないでしょうか。

二人の行方

燃える恋からどんどん冷める恋、正にCOLD WARへと変質したヴィクトルとズーラの愛。

二人は最後に結婚式を挙げ、その後画面からフェードアウトしていきます。

果たしてこのラストの二人はどうなっていったのでしょうか?

心中

しだれ桜恋心中

結論を端的に述べるなら二人の行方は“心中”ではないでしょうか。

画面で示されたように、二人は大量の錠剤を飲んだ上挙式の場所も廃墟のような所です。

このように退廃的なイメージや自殺を連想させる描写から二人は死を選んだのでしょう。

その破滅のような生き様とは正反対にラストは寧ろ妙な清々しささえ感じられます。

だからこそこのシーンの第一義は心中なのではないでしょうか。

愛ではなく執着

愛と執着の社会学―ペット・家畜・えづけ、そして生徒・愛人・夫婦

ラストで二人の中に残っていたのはもはや愛ではなく執着だったのではないでしょうか。

普通であれば家庭を持ちながら浮気相手とも呼べる好きな男性と二人で挙式なんてしません。

今の時代そんなことをしようものなら多額の慰謝料を請求されてもおかしくないのです。

もうここまで来ると二人は恋や愛、更に情念すら超えてお互い以外目に入らないのでしょう。

こうなるともはや執着或いは執念以外に形容する言葉が見つかりません。

その執着・執念故にこそ二人は全てを捨てて心中という方向を選ばれたのです。

亡き両親への餞

両親に贈りたい旅 (TABI‐GUIDE SERIES)

そして衝撃の「両親へ捧ぐ」というテロップがラストで表示されます。

これは亡き両親へパヴェウ・パヴリコフスキ監督からの餞ではないでしょうか。

監督のご両親は結婚していながらお互いに愛人・恋人を作って浮気や不倫をしていたと聞きます。

それでいて決して別れることがなく最後までいっしょだったのだそうです。

つまりヴィクトルとズーラはやや茶化しも含めた息子なりの愛情表現だったのでしょう。

ズーラ、その愛と死

愛と死 (新潮文庫)

そしてもう一つ、ヴィクトルと対になる本作の飛び道具にして魔力の象徴でもあるズーラ。

本作の最期が死だという解釈を前提として、ここでは彼女の愛と死について見ていきます。

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