それもその筈、この時はまだ彼女自身が失恋に酔いしれた絶望的な気分で歌っており、独り善がりだからです。
勿論独り善がりの方が受けるタイプのアーティストもいますが、グレタはそのタイプではありません。
ここで歌った曲は“A Step You Can’t Take Back”ですが、この曲はただの失恋ソングではないのです。
失恋に始まるあらゆる人生の痛みや挫折・困難を凝集しながら一歩前に踏み出す内容を歌い込んでいます。
だからこそグレタは多くの人と関わっていく中でこの歌の歌詞に合うような人になったのでしょう。
配信で歌を広めた真意
終盤でグレタとダンはレコード会社との契約を辞めてダンと共に配信でアルバムを広めました。
しかも1ドルという破格の安さでダンをクビに追い込む形になってしまいます。
果たしてそこに込められた真意とは何なのでしょうか?
自分達の目指す音楽を作る
一番はグレタの音楽とも繋がりますが、ダンや周りの人達と培ってきた本来の音楽を作る為でしょう。
レコード会社との契約は確かにヒットさせるのに有用ですが、結局は会社側のお仕着せでしか作れません。
それだと結局は彼女本来の味がある音楽が出せず、上手く行っても後々躓くと悟ったのでしょう。
彼女にとって音楽とはあくまでも自分の好きなものと得意なことを掛け合わせて世の中に提供するものです。
だから単なるショービジネス、金儲けが目的の音楽では絶対に上手く行く筈がありません。
事実1ドルで始まった配信は瞬く間に大ヒットし、世の中へと広がっていく形になりました。
平凡な日常を真珠に変える魔法
二つ目に大きいのは彼女がビジネスパートナーとして組んだダンの次の言葉です。
音楽の魔法だ、平凡な風景が意味のあるものに変わる
陳腐でつまらない景色が美しく光り輝く真珠になる…音楽でね引用:はじまりのうた/配給会社:ポニーキャニオン
彼のこの言葉にこそ二人が配信を1ドルで始めた真意が語られているのです。
そう、音楽とは決して遠くにある高尚な芸術ではなくもっと平凡な日常に溶け込んでいます。
そしてその日常の何気ない幸せを一つの真珠という大きな宝に変える最高の魔法なのです。
それを実現するためには何よりも身近な媒体としてネットでの配信を選んだのでしょう。
電車の中でイヤホンを通して二人で聞く場面などは最高に格好いい二人の音楽の真珠ではないでしょうか。
身近な所から始められるネットビジネス
そしてもう一つ、このラストシーンが示すのは既成の枠組みに囚われない新しいネットビジネスの形です。
2013年当時の背景はまだネットビジネスも黎明期だった頃で、YouTuberなども定着していない時代でした。
そんな時代にネットビジネスの先駆けとして象徴的に描かれていたのがこのシーンだったのではないでしょうか。
新しいビジネスの形を示し、それまでとは違う等身大の日常を真珠に変える音楽は世のニーズとなるでしょう。
同時にそれまでプロ達の専門分野であった音楽を誰しもがビジネスとして始められることをも示しています。
だからこそ多くの人々の共感を呼ぶシーンにして本作の象徴にまでなったのです。
留守電に乗せた曲に込めたもの
さて、もう一つ本作で外せないのはグレタが留守電に乗せた「Like a Fool」という曲です。
この曲に込められたグレタのデイヴに対する思いとは何だったのでしょうか?
歌詞の内容や二人の関係などから考察していきましょう。