だから、このシーンには決してもう交わることがないエヴァンとケイリーの完全な別れを意味しているのです。
雑踏=大量の現在の記憶
そしてもう一つ、この振り返りが象徴的なのは二人がすれ違ったのが街中の雑踏であるということです。
雑踏とは過去の記憶を上書きしてしまう現在の記憶の象徴であり、二人の記憶は完全に雑踏に消されてしまいます。
つまりもう二人にとってお互いの存在が大切でなくなったこと、その変化を象徴しています。
ケイリーの振り返りとはその意味でエヴァンの記憶に残っていた微かな残滓だったのではないでしょうか。
それが現在に生きる中で自然消滅してしまう儚さにこのシーンの理由・意味があるのです。
父がエヴァンを殺そうとした真意
さて、エンディングに入る前のあるタイムリープでエヴァンの父ジェイソンはエヴァンを殺そうとしました。
そこで何と父もエヴァンと同じ力を持つこと、即ち親子の遺伝による能力だったことが判明しています。
ここではその真意を明らかにしていきましょう。
神の真似事
父親はエヴァンに「神の真似事をしてはいけない」と語って聞かせ、能力の行使を止めさせようとします。
これは自身もまた時空跳躍の能力者だったからこそ身にしみてその恐ろしさを知っていたのではないでしょうか。
事実彼が危惧していたようにエヴァンは最後のタイムリープ以外何らかの形で犠牲を出しているのです。
時間の流れは勿論歴史にも逆らうことになるタイムリープなど本来は存在してはいけないものでしょう。
同時にジェイソンの存在はこの作品における暴走ストッパーの役割もまた果たしているのです。
バタフライ効果の暗黒面
このシーンで示したかったことは何よりもバタフライ効果の暗黒面が如何なるものかの指摘でした。
過去の時点に戻ってわずかに力関係を変えることは確かにそれ自体絶大な効果です。
しかし、反面それは個人の欲望の為に他者の命を平然と犠牲にするという代償もまたあります。
本作の素晴らしい所は決してこうした人類にとって過ぎた力を全面肯定していないところです。
ジェイソン父は本作のテーゼを見事に確立した存在となりました。
犠牲なしに得られる幸福はない
このシーンの後、エヴァンは身を以て父親が示したバタフライ効果の暗黒面を味わうことになります。
ここで示されているのはこういう禁じ手を用いても幸福を代償なしに得られないことです。
本当の幸せとは地道な積み重ねの上にしか得られないことをエヴァンは思い知ることになりました。
だからこそケイリーは上述したようにそもそもケイリーと関わらないようにする方法を取ったのです。
その結果ケイリーと結ばれるという個人の欲望よりも全員が死ぬことのない幸せな世界へ至りました。
つまり父がエヴァンを殺そうとしたのは最良の未来へ至る為の重大なヒントだったのではないでしょうか。
マルチエンディング
さて、本作では実はケイリーとエヴァンが離れ離れになる以外にも三つのエンディングが用意されています。
DVDに収められているのが二種類、ディレクターズカット版に含まれているものが一種類です。