良い歌とは何かという価値観、親が子を育てるということに対する価値観。
彼女が自分の考えに基づいて放つ言葉の数々は、自然と周囲に影響を与えました。
そして同時に、彼女自身の中でも、自分を見つめなおすことに繋がったのではないでしょうか。
見た目がどのように変化しても、カツの大切なものは変わらなかったのです。
カツにとって大切なもの
カツの決断の背景にあったのは、おそらく彼女の中の大切なものを守りたいという想いです。
それでは、その大切なものとはなんでしょうか。
人のための人生?
次郎の娘は、次郎と節子の仲を疑ったとき、泣いてこう叫びます。
自分は母親が死んでからずっと、嫁に行かずに父のために尽くしてきたのにと。
コミカルな色の濃いシーンですが、ここにはこの映画の核が潜んでいるかもしれません。
この台詞は、カツが幸恵と喧嘩をして家出することになった発端の言葉に、非常に似通っているのです。
この台詞が出た直後、カツは沈んだ表情で夜の街をさまよっています。
家族のために、と生きてきた自分の人生を省みているのでしょう。
楽しそうに外食に出かける幸恵と翼の姿と、ひとり佇むカツの対比にも彼女の心の虚しさが現れています。
家族のためにと苦労して生きてきたはずの自分。本当にこれで良かったのかと。
そしてここで揺らいでいる家族のために生きてきた人生こそ、カツが大切にしてきたものなのです。
翼が作った歌
しかし、カツは再び家族の元へ戻ることを決意します。
その一番の要因となったのは、孫の翼が作った『帰り道』というオリジナルソングでした。
翼の口からは語られませんが、この曲は彼の母、そしてカツの娘である幸恵のために作られたものです。
そのことをカツは分かっていました。
カツから幸恵へ、そして幸恵から翼へと、親子の愛が受け継がれていたことをこの『帰り道』は象徴しています。
夢への一歩を踏み出すそのときに、翼が家族への思いを託した曲。
最後にこの曲を歌いあげ、カツは二度目の青春に別れを告げました。
カツの決意の裏には、家族のために生きてきた自分の人生を間違っていなかったという思いがあったのではないでしょうか。
次郎が写真を撮った理由
カツの幼馴染の次郎。どんなときもカツを慕い、彼女には頭が上がりません。
そんな次郎ですが、ラストではなんと『ローマの休日』のグレゴリーペックよろしく若くハンサムな姿で登場。