ここで面白いのは彼女が宮沢のことを好きになったと直接的に描かず間接的に隣に並び立つとしたこと。
あれだけ一人の男性を好いていたのですから、そう簡単に次の男性へと進むことは出来ないでしょう。
職場の同僚であるにしても男女の関係に踏み込むにしても、泉はやっと「今」を生きられる人になりました。
きっとこの二人は良好な関係を今後とも築いていけるのではないでしょうか。
柚子が自殺した理由
どうしても葉山と泉、小野の三角関係が中心となる本作ですが一方で学園ドラマのテイストもありました。
それは絵を得意としていた演劇部所属の塚本柚子の自殺であり、中盤で一つの大きな山場になっています。
彼女は何故自殺をしてしまったのでしょうか?
見知らぬ男に襲われた
まず最初のきっかけとなったのは柚子が遺書となる手紙を書いた冬の夜の帰り道に男に襲われたことです。
映画では直接的に描かれていませんが、彼女はこの時男性に強姦されていました。
これだけでもかなりのトラウマものですが、同時に彼女は誰も助けてくれない絶望を感じたのでしょう。
母は仕事に出かけ、アルバイト先の人も居なくて学友も居ないという状況が尚更絶望を加速させます。
危ない夜道を一人で帰っていた柚子にも責任はありますが、それを冷静に受け止める余裕がありませんでした。
まずここで最初の事件が起こしたトラウマが一つの引き金となっています。
新堂君の複雑な気持ち
そして柚子の中で一番心残りだったことは同じ演劇部所属で信頼を寄せていた新堂君への複雑な気持ちでした。
柚子は手紙の中で自分の無力さと自己嫌悪、そして伝えたいという気持ちすら消えて無くなりそうだと述べています。
元々自己主張の強い人ではなかったことも大きく影響し、手紙に残すしかなかったのではないでしょうか。
そして何より信頼している新堂君でさえ柚子を守れない時があるという現実の残酷さを感じていたのでしょう。
そうした様々な感情が綯い交ぜとなって、もう自殺するしかないという極限状態にまで追い込まれたと推測されます。
ただでさえ多感な思春期の子で神経も凄く細い柚子だったからこそ一人で抱え込んでしまったのでしょう。
学校の限界
見逃せないのはそんな柚子の深い悩みを見抜けなかったと失望した葉山先生や演劇部の人達でした。
そう、どんなに楽しく見える学校生活もそれが生徒を守る全てではないということを示しています。
小野と泉の恋も泉と葉山先生の恋も全ては叶わぬ想いとして現実に打ち砕かれていくのです。
そのようなやるせない想いが積もりに積もった一つの形として柚子の自殺があったのではないでしょうか。
葉山先生は決して「金八先生」のようなパーフェクトヒーローでは決してありません。
教師という仕事の負の側面もまた柚子の自殺に象徴されていたと思われます。
最後に見つめ合った二人の心情
かなり長きに渡って尾を引いた葉山先生と泉の恋は最後別れゆくお互いを見つめ合う形となりました。
決して涙も流さず手も振らず「さようなら」ともいわずに二人は別れるのです。
果たしてそこにどのような心情が込められていたのでしょうか?
想いを消化する
まず一番の心情としては見つめ合うことでお互いへの想いを消化しようとしたのでしょう。