この辺りは普遍的な人間の”孤独”の象徴であり、どんなに他者と関わった所で孤独からは逃れられません。
ましてやジェシーに限らず数多くの女性の命を文字通り”食い物”にしてきた三人は尚のことそうでしょう。
即ち本作は若さ故の輝きを前面に押し出しながら物語として決して美を肯定などしていないのです。
どんなに美しいものだって最後は荒れた地のように何も残らず露と消えてしまう儚さをこのラストは示しています。
モーテルにヤマネコがいた理由
前半でジェシーがキアヌ・リーブス演じるハンクが経営するモーテルへ宿泊するシーンがあります。
伏線も何もなくいきなり現われたのですから幾分唐突ですが、そこには何か意味があるはずです。
そのモーテルにはヤマネコが居るのですが、果たしてそれは何故でしょうか?
一難去ってまた一難
まず大前提としてこのシーンの前に鏡を割って襲ってきたサラの魔の手から逃げ延びた事実があります。
正に一難去ってまた一難ですが、これ以後ジェシーには大成功と引き換えの受難が襲いかかるのです。
その不吉な受難の入り口として一つの大きなきっかけとなっているのがヤマネコなのでしょう。
ヤマネコは確かに凶暴な側面こそあるものの、防衛本能以外で人に襲いかかるなど普通ありません。
そのヤマネコがジェシーに襲いかかったのはジェシーの美しさに防衛本能が反応したのかもしれません。
ジェシーの鏡面
都会の複雑さに不用心で鈍感であることも含めて、ヤマネコはジェシーの鏡面ではないでしょうか。
ヤマネコは他の動物と比べても徒党を組んだり協力したりせず決して群れない孤独な動物です。
これは正にトップモデルとして活躍しながら決して他者と群れないジェシーそのものでしょう。
人間、自分の目の前に現われる人や生き物は自分を鏡面として具現化したものだといいます。
手入れされてない自然の美しさとそれ故の凶暴さを内に秘めたジェシーの本質なのでしょう。
だからこそまるで引き寄せられるかのようにモーテルのジェシーの部屋に襲いかかったのです。
ファッション業界の闇の深さ
そして後述するサラ達のことも含め、ヤマネコはファッション業界の闇の深さを表わしていたのでしょう。
ヤマネコという存在は文字通り山の中、即ち人が足を踏み入れてはならない深い闇が横たえる場所にいます。
それは正にファッションモデル業界が表の華やかさとは裏腹に抱えている深い闇と重なるのです。
美しさを大衆向けの商品にして売り出し、利用価値がなくなってしまえば消耗品として切り捨てられる残酷な世界。
そのような危険な場所であることの象徴としてヤマネコをシーンに出して印象づけたのではないでしょうか。
そしてそのヤマネコが剥製として人間に利用されるというのは何とも皮肉めいています。
サラが鏡を割った理由
上述したヤマネコと出くわすシーンの前にサラが鏡を割ってジェシーを驚かせるシーンがあります。
しかも怪我をして出血したジェシーの右手の血を美味しそうに舐める所まであるのです。
何とも悍ましい一連の流れですが、そこに至るにはどのような理由があったのでしょうか?
白雪姫と魔女
まずここにグリム童話『白雪姫』の白雪姫と魔女の構図が本歌取りとしてジェシーとサラに用いられています。
ジェシーは絶世の美しさを持った天真爛漫故の残酷さを持った白雪姫で、サラは鏡を見て絶望した魔女です。