男として女性の愛を手に入れられなかったとしても、科学者として成功すれば良いのだと、彼は自分に思い込ませたのではないでしょうか。
そしてその想いとは裏腹に、実験成功で自分のステータスが上がれば彼女が戻ってくるのではないかと期待していたのかもしれません。
セスは社会的にまだ地位を確立しておらず、逆にステイシスはベロニカの上司であり編集長という肩書きがあります。
彼女をとられる前に、ステイシスより高い地位にすぐに立ちたいという焦りがあったように見えます。
ハエという邪心
ハエは虫の中でも1、2を争うほどの嫌われ者です。
ハエは汚い物に寄り付くことから、ハエ男のセスには汚れた物が入り込んだと考えられます。
研究一筋で生きてきたセスは、ある意味純真無垢の存在でした。
しかし嫉妬という醜い心を宿したことで、心に汚れた部分が誕生したと考えられます。
つまりその汚れを表現するのにハエが用いられたのではないでしょうか。
ヴェロニカが引き金を引いた理由
完全にハエ男と化したセスは、ステイシスを襲います。ですが一瞬人間の意識に戻り、自分を撃つよう懇願。
この時のヴェロニカは、まだ人間性を残したセスを前にして心が揺れたはずです。
それでも彼女が引き金を引いた理由とは一体何だったのでしょうか。
セスの記憶を消し去りたい
少し前にヴェロニカは、ハエがお腹にいるなんて耐えられないという本音を漏らしていました。
もはや人間としてセスを見ていない証拠です。
この時、仕事の内容以外にも全てを打ち明けられる相手はステイシスであり、彼女の心はもう移り変わっていたのかもしれません。
汚いものがお腹の中にいるという嫌悪感を抱いていたヴェロニカにとって、やはりセスは汚い生き物なのです。
あんな男と愛し合っていたという事実自体を抹殺したかった。そんな想いも、ヴェロニカに引き金を引かせたのではないでしょうか。
セスの人間性を尊重
ヴェロニカは最後にセスの人間としての一面を見ます。この先ハエとして生きていくのは、彼にとっても地獄です。
時間が経てば経つほど人間性は失われていくでしょうから、まだ少し人間らしさを残しているうちに殺してあげる。
それがセスを人間として扱っている証拠にもなるのだと思われます。
ヴェロニカは人間としての死を彼に与えるためにも銃を撃ったのでしょう。
まとめ
グロテスクなホラー作品ではありますが、1番の見所はセスの一途な愛ではないでしょうか。
テレポッドは彼自身が投影されており、ヴェロニカが装置に入ることを拒んだことは、セスを拒んだことと同義です。
愛によって有機物転送の課題をクリアし、愛によって身を滅ぼしたセス。
最後に人間の意識を取り戻して死ねたことが、彼にとって救いだったのかもしれません。