また彼女が精神的自立を果たす為には父の存在はどう足掻いても障害にしかなりません。
母親の場合と同じくこれもやはり娘が神の力を振るい行った罰であると推測されます。
テルマが辿る運命の暗示
二つ目にこのシーン自体がテルマが辿る運命の暗示であるということです。
どういうことかというと、祖母が祖父を船から居なくなるよう祈った時の擬似再現となっています。
そしてその後祖母はそのことを強く後悔し誰も認識できない程に精神崩壊してしまったのです。
その遺伝子を受け継ぎ父を殺したテルマにもいつかそのしっぺ返しは必ずやって来るでしょう。
テルマもいつか祖母と同じ悲惨な末路を辿ってしまいかねないことを示したのかも知れません。
弟の死の真相
さて、弟の死の真相は両親が弟ばかりを溺愛しテルマを放置したことが原因でした。
ここで大事なのは父親の人体発火とは逆に氷漬けにされているということです。
この辺りはかなり意図的に火と氷を対比させて使い分けたと思いますが、ある一つの法則が分かります。
それは火や氷がテルマの心情を技の属性として反映したものになっているということです。
火は当然父親の強い憎しみから来ますし、氷は弟に対する絶対零度の如き冷たさがそうさせたのでしょう。
正の感情も負の感情も全てはテルマの潜在意識の具現化という形に収束するよう出来ています。
常識が人の個性を縛り付ける
本作はこうしてテルマと彼女に関わる人達を通して一つのメッセージを伝えてくれています。
それは常識というものが如何に人の個性を縛り付けるくだらないものであるかということです。
父トロンのやって来たことは表現こそ過激ですが主張自体は極めて常識的な正論でしょう。
しかし、その常識とは自身の内面から来たものではなく人目や世間体に縛られたものです。
同性愛や超能力、それらは世間から見れば確か異質ではありますが、決して非常識ではありません。
寧ろその社会でしか通用しない常識に人をあてがい判断することこそが非常識なのです。
本作はテルマという極めて常識から外れた人間の苦悩・葛藤を描くことでそれを教えてくれました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作はかなりタブーといえる所に踏み込んでいるために奇を衒った問題作とも見られがちです。
しかし、本質を突き詰めていくと中身は案外的を射た人間の心理の本質を描いています。
とはいえ決してテルマの生き方のメリットだけではなくデメリットや暗黒面も示されているのです。
常識的な生き方ではなく非常識を受け入れたテルマですが、それは同時に孤独との戦いでもあります。
だからハッピーエンドであると同時にこれから彼女が抱える運命の闇も窺えるのです。
ですがテルマが自身の意志で勝ち取った人生ならば決して悔いはないのではないでしょうか。
そのような常識のリミッターを外してくれる作品として非常によく出来ています。