そして、あきこも毎日を同じルーティーンで生活をしており、認知症を少し発症していたことで2人は似た者同士に映りました。
鍵を失くしパニックを起こした弘也があきこの言うことに素直に従ったのは、あきこが日ごろから弘也の話しを親身に聞いていたからです。
あきことの出会いが救った涙
弘也の母が発達障害を持つ息子に心からの愛情が注げなかったことは、弘也のことで世間から偏見を受けて心に余裕がなかったからです。
母が言った弘也が「迷惑」をかけていると言ったのは好奇な目に晒されている自分の辛さから、先回りして謝る癖がつき思わせているのでしょう。
それは“支援”が必要な子供を持ったことの世間に対する負い目があるからです。その負い目を軽くしてくれたのがあきこの言葉でした。
「お行儀よくしてましたよ。お片付けはできるし、お仏壇にお線香をあげていたら弘也君も一緒に拝んでくれたのよ。
それにこの道を通る時に“こんにちは、さようなら”って私に言ってくれるの。こんないい子はいないと思うわ。」
「こんなに褒められるのは初めてで、どこに行っても謝ってばかりで…」
引用:きみはいい子/配給会社:アークエンタテインメント
自分が勝手に辛いとか恥ずかしいと感じて「迷惑」をかけていると思い込み、弘也の長所が彼女には見えていなかったのです。
あきこの言葉で弘也の母は救われる思いをしたのでしょう。目に貼り付いていたウロコはいっぺんにはがれ落ち涙となって流れ出たのです。
なぜ陽子は雅美を抱きしめたのか
「べっぴんさん」
児童虐待の事件がある度にどうして自分の子供にそんなことができるのか、母親はなぜ止められないのか?という疑問が出ます。
母親が子供に虐待をする場合の要因に、自分も子供の頃に同じ経験があることがあげられます。雅美はまさにそのタイプの母親でした。
雅美は大人になって親と同じことをするとは思わなかったでしょう。ですからそんな自分に嫌悪して娘に暴力を振るうとトイレに隠れるのです。
そして、うわべだけのママ友付き合いをしていたのは、その時だけは娘を虐待しないですむからなのでしょう。
同類相憐れむ
陽子もまた雅美と同じように親から虐待を受けて育ちました。雅美との決定的な違いは陽子にはかばってくれる大人の存在がいたことです。
近所に住んでいたおばあちゃんが外で殴られている私を抱いてかばってくれたの。それがなかったら私耐えられなかったと思う。
そのおばあちゃんがね、いっつも言ってくれたの…会うたびに“べっぴんさん”って、だから私も言ってあげたいの。
引用:きみはいい子/配給会社:アークエンタテインメント
陽子は自分も虐待されてきたけど、おばあちゃんにかばってもらい抱きしめられた経験があって虐待しない親になれたと思っています。