その後、屋敷にやって来たアランを始末しようとした際にこれまで彼女が弟には殺人をさせていなかったことが分かります。
ルシールがわざわざ男装をしてでも自らの手で悪事をはたらくのは、トーマスに庇護欲と支配欲を抱いているからです。
汚れ役を一身に受けることでトーマスに負い目を感じさせれば、彼をコントロールすることができます。
カーター殺害の経緯には対等ではないルシールとトーマスの関係性が見え隠れしているのです。
なぜ結婚したのか?なぜ結婚を認めたのか?
悲劇の始まりとなったイーディスとトーマスの出会い。
なぜイーディスは彼に惹かれ、そしてトーマスとルシールは彼女を花嫁にしたのでしょうか。
無垢な乙女イーディス
イーディスがトーマスに惹かれた理由は、彼が彼女の書いた小説を高く評価したためです。
小説家になる夢を持ちながらもなかなか叶えることができないでいた彼女。
自分の作品を認められたことは、幼気なイーディスの心が開かれるのに充分な理由でした。
また、彼女がトーマスを精神的に頼っているようにうかがえる描写も。
カーターの葬儀のシーンは、冒頭のイーディスの母親の葬儀のシーンと同じ構図が反復されています。
幼いイーディスの傍らには父親が寄り添っていましたが、その父の葬儀ではその位置にいるのはトーマス。
夢を諦めかけ、家族も失ったイーディスにとって、トーマスとの結婚は唯一寄るべきものとなったのです。
はじめて愛を知ったトーマス
トーマスがイーディスとの結婚を決めたのは、彼の中に彼女への愛が芽生えていたためでした。
もちろん当初の、そしてルシールへ向けた表向きの目的は彼女の財産。
ルシールに歪んだ愛情を注がれて生きてきた彼は、自分の中の恋愛感情に気付くことができません。
彼がそれを自覚するのは、イーディスが屋敷にやって来てからです。
しかし無自覚な愛情は彼の目をイーディスへと向けさせ、トーマスは彼女との結婚を望みました。
トーマスを完全に支配できないルシール
ルシールはおそらく、トーマスの変化に気が付いていたのでしょう。
だから彼女はイーディスと結婚するというトーマスの計画に、当初難色を示しています。
トーマスに対して支配的な態度の彼女ですが、愛しているからこそ、彼を完全に言いなりにすることはできません。
そのいら立ちが、余計に彼女を猟奇的な行動へと駆り立てていったのでした。
本当に恐ろしいもの
デル・トロ監督は今作について、本当に恐ろしいものは生きた人間であることを描きたかったと語っています。
ルシールの壮絶な愛情は、たしかにおどろおどろしい姿の亡霊たちよりも鬼気迫るものでした。
しかし、それはただ単に恐ろしいものだったのでしょうか。
最後には彼女もまた亡霊となりましたが、その姿はどこか美しささえ感じさせる、もの悲しいものでした。
身の破滅を招くほどの強い想いは、傍からみると恐ろしいもの。
しかしその本人にとっては、切なく悲しいものなのかもしれません。