他のメンバーが割と早い段階で個性を発揮していた中、コユキの才能は中盤になって漸く披露されました。
しかし、実際はこのボーカルのシーンは入っておらず彼の歌声はラストまでかかりません。
このことから評価が二極化し、批評家からは軒並み酷評を食らう原因となっているようです。
ですが、もし佐藤健が歌うと原作漫画のイメージを大切にする受け手を幻滅させるかもしれません。
そうなると天性の歌声という設定に違和感が出るため敢えて地雷を避けたのではないでしょうか。
タフな精神力と努力
二つ目に挙げられるのがその気弱な見た目と性格に反するタフな精神力と努力ではないでしょうか。
いじめられっ子なコユキですが、メンタル面は非常にタフで並大抵のことでは動じません。
また、音楽のこととなれば得意分野ではないギターでも何でも努力することを厭わない精神を持っています。
個性的なメンバーが多い中で地味で目立ちにくいだけで、実は一番芯が強く描かれているのです。
この原作漫画のイメージをその通りに再現できたのは演じた佐藤健の役者の力が大きいでしょう。
一見大人しそうながら芯が強く実は多才な佐藤健とコユキは上手くリンクしています。
度胸がある
そして一番の才能はそうしたメンタル面のタフさから来る土壇場での度胸があることです。
バンドの存続を独断で決めた竜介とそれに怒った千葉の喧嘩からグループは危機に追い込まれます。
周りが狼狽する中スタンバイの時間になってもコユキは怖じ気づくことなく一人でも舞台に立ち上がりました。
そんな風にいざとなればグループの為に矢面に立ってプレッシャーに耐える程の力があるのです。
だからこそラストは彼を筆頭に少しずつメンバーが集まって一つになることが出来ました。
土壇場で物怖じしない胆力の強さこそコユキが一番メンバーの中で持っていた才能でしょう。
思考の枠を外す物語
本作は音楽を通して一人の天才少年が才能豊かな仲間たちと共に「思考の枠」を外す物語です。
コユキはずっと平凡な高校生として扱われ常識や普通の思考に囚われてセルフイメージが低いままでした。
そんな彼が他人の目やいじめっ子たちの暴力・罵倒から解放され天才へとのし上がっていくのです。
そしてそれを可能にした竜介をはじめとするBECKの仲間たちもまた思考の枠に囚われない人達でした。
人間結局は自分の思い一つで貧乏にも豊かにもなることが出来、限界などないことが分かります。
そこが人々の潜在意識を突いたからこそここまでの傑作になったのではないでしょうか。
真に個性を伸ばす環境が必要
いかがでしたでしょうか?
本作が最後に伝えてくれたメッセージは日本にはもっと真に個性を伸ばす環境が必要だということです。
日本の風土で突出した天才や時代を導くスーパースターが出にくいのも出る杭が打たれる環境にあります。
そうした環境の元で作られた「常識」「普通」「みんな」「平凡」が人の可能性を矮小化するのです。
コユキは海外で非常識な考えや感性をもって生きてきた竜介との出会いで自身の個性を引き出しました。
それは一見特殊のようでいて実は誰の中にもそうした蓋をしてしまっている個性や才能はあるはずです。
そうした可能性を潰さず見出して伸ばす環境をどれだけ作れるかが大事だと伝えてくれた名作でしょう。