まず本作におけるパリはトラヴィスとウォルトの両親が初めて愛を誓った始まりの地なのです。
だからこそトラヴィスはそこを買い取り、ジェーンとの生活を始めることを決意しました。
つまりそこへ戻っていくということはトラヴィスにとっては原点を見つめ直す旅でもあります。
だからこそ彼は飛行機ではなく車で長い旅路の1つ1つを確かめるように進みました。
それだけトラヴィスにとって一生の思い出となるような場所だったということです。
4年間の空白の日々
2つ目にパリとテキサスを繋ぐのはトラヴィスと家族を隔てていた4年間の空白の日々でした。
自由気ままな放浪といえばかっこよさそうですが、要は家族と向き合うことから逃げていたのです。
その家族ともう一度向き合うことを決めたことがパリとテキサスを繋ぐ道標となります。
そしてその道中でトラヴィスは息子のハンターと再会し空白の日々を埋めていくのです。
今までずっと点でしかなかったトラヴィスの人生が再び1本の道で繋がり始めたのでしょう。
家族再生といえば再生なのですが、それでもこの空白は完全に埋まりきりません。
ジェーンとハンター
そして最終的にパリとテキサスが結びつけたのは離れ離れになったジェーンとハンターです。
もしトラヴィスがテキサスを旅していなければ2人はずっと離れ離れになっていたでしょう。
その原因を作ってしまったのは自分の愛故の嫉妬であり、その責任を取らないといけませんでした。
ずっと逃げていた家族の問題にトラヴィスなりの形で決着をつけることが出来ました。
そして同時にそれはこれからずっと続くトラヴィスの永遠の孤独の始まりでもあるのです。
家族はいつかバラバラに散っていく
こうして見ていくと最後に残ったのは「家族はいつかバラバラに散っていく」というメッセージです。
どれだけ愛してどれだけ絆を強めていっても、時が来れば家族はいつしか離れ離れになっていきます。
トラヴィスは愛故の嫉妬でそれが早く来てしまっただけで、ジェーンもハンターもいつか離れるのです。
だから本作は一見家族愛を肯定しているようでいて実は逆に否定しています。
トラヴィスも、そしてジェーンとハンターもこれからきっとそれぞれの旅が始まることでしょう。
本当の価値は孤独から生まれる
いかがでしたでしょうか?
本作はトラヴィス一家を通して家族愛が所詮作られた幻想でしかなくいつかなくなることを示しました。
それは逆説的に本当の価値は孤独からこそ生まれることを訴えているのではないしょうか。
男女の愛も親子の愛も家族の愛も全ては人が本質的に孤独であることを理解しているから生じるのです。
そしてそれ故にいつか孤独になっていかざるを得ないことも承知しています。
ならば今私たちにとって大切なのはその孤独を受け入れ1人で走る為の準備でありましょう。