しかし、真下の息子の誘拐・殺害未遂で現行犯逮捕された久瀬以外の2人は、警察を退職させてから逮捕するという結論に至っています。
また、少女誘拐事件に使われたとされる拳銃も、弾丸が摘出されているのにも関わらず「拳銃の種類は不明」という不可解な結果になっているのです。
ここから考えると、上層部が隠蔽しようとしたものは、警察官が犯人という事実であると考えられます。
本来は「正義」であるべき警察が、殺人や誘拐をはじめとした悪事に関与していたとなると、市民や国民からの信用は失墜してしまうでしょう。
そのため、警察官が犯人である証拠をうやむやにし、警察官としてではなく、一般人として久瀬達を逮捕できる機会をうかがっていたと考えられます。
警察官を逮捕するのと、元警察官であった一般人を逮捕するのとでは、警察庁や上層部へのダメージは大きく異なることは明らかでしょう。
また事件直後には、事件に関するニュースが読み上げられるシーンが描かれていました。
しかし、久瀬たちの名前がニュースで公表されることはなく、事件後に退職しているのにも関わらず「数日前に退職していた」と公開されています。
おそらく警察上層部が、事件の真相をうやむやにした内容をマスコミに公開したことで、警察組織に傷が付くことを防ごうとしたのではないでしょうか。
穴だらけの警察規則
『踊る大捜査線』シリーズでは、主人公の青島を通して、警察組織の在り方についてスポットを当ててきました。
しかし本作では青島ではなく、鳥飼や小池などの上層部の人間を通して描かれています。
所轄の警察官たちとはまた違った規則・責任に基づいて動く上層部の人間ですが、本作では特に規則の在り方について言及していました。
特に少女誘拐事件は、あと少しで少女を無事に助け出せる状態であったのにも関わらず、規則によって少女が殺害されてしまいます。
このような無駄な犠牲は、事件に合わせて柔軟に対応できない欠陥だらけの規則が原因であり、この規則こそが上層部が隠蔽したい点といえるでしょう。
久瀬と鳥飼が過去の事件を模倣した理由とは?
本作で起こった一連の事件の裏側では、久瀬の他に鳥飼・小池という2人のキャリア警察官が黒幕として暗躍していました。
また映画の中盤にて、久瀬たちの犯行が、彼ら自身が様々な形で事件に携わっていた6年前の少女誘拐事件を再現していることが判明します。
鳥飼達にとって暗い記憶を呼び起こさせる誘拐事件を、何故彼らはあえて再現したのでしょうか。
ここでは、鳥飼達が過去の誘拐事件を再現した理由について考察していきます。
事件を思い出させるため
一連の事件の表向きの犯人であった久瀬・小池は、それぞれ6年前の少女誘拐事件の被害者に直接関わっている人物であることが判明しました。
久瀬はカウンセラーとして被害者家族の心のケアをしていただけでなく、被害者の母親とプライベートでの関わりもあったと描かれています。
おそらく、被害者家族の声を聴いているうちに、警察官としてだけでなく、一人の人間として被害者の母親を守りたいという気持ちになったのでしょう。
小池は、真下とともに直接事件に関わっており、被害者家族の兄役として電話を担当するなど、少女が犠牲になった真相をよく知る人物といえます。
そのため、上層部に従い、少女の犠牲にしてしまったことを悔やむあまり、交渉課で事件を担当していた真下と上層部への復讐に至ったのでしょう。
少女のような「規則の犠牲者」を二度と出さないよう、上層部の人間達に事件の再認識をさせることを目的に事件の再現を実行したと考えられます。
警察組織が抱える「闇」の露呈
管理官の鳥飼は、被害者の叔父であり、捜査には直接関われなかったことから、特に警察組織への不信感を募らせていた人物といえるでしょう。
また鳥飼は、警察庁長官の池神に改革建白書や誘拐事件に使われた拳銃を提示するなど、序盤から事件に関する反応をうかがうシーンが描かれています。
しかし、池神は建白書をゴミ箱に投げ捨て、事件当時に使われた拳銃を見ても何の反応を示すことなく、鳥飼を帰しました。
姪が殺害されただけでなく、上層部によって事件内容がうやむやにされたことは、鳥飼に警察組織の一新を決意させるきっかけとしては十分でしょう。