一歩踏み外すと道を逸れてしまいそうな危うさを持つデズモンドを敬虔な信者として踏みとどまらせたのは間違いなく母の愛です。
家族との関係
デズモンドの家庭は少し問題を抱えているように見えますが時代背景を考えると納得もできます。
土豪の中でスミティーが語った彼の過去の方が悲惨かもしれません。
歪んだ感情を持ってしまったと自覚しているスミティーとデズモンドの違いは『家族愛』の有無です。
彼の故郷はブルー・リッジという切り立った崖のある町でした。
そして神の使徒として走り抜いたのがハクソー・リッジです。
この映画は『崖』を効果的に使っています。
彼が崖から落ちずに済んだのはドロシーも含め家族がいたからに違いありません。
ドロシーという存在
ドロシーが信じてくれたからデズモンドは信念を貫くことができました。
あの裁判の前にドロシーが理解してくれていなければこの物語は誕生していません。
他の人間とは違うあなたをずっと愛し続けると言ったドロシーもまた強い意志の持ち主ですね。
デズモンドの最大の理解者であり最愛の人だったドロシーは1991年、デズモンドより14年も早く事故で亡くなっています。
ハクソー・リッジという映画とデズモンド・ドスの生涯
ハクソー・リッジの活躍前にもデズモンドはグアム戦とフィリピン戦で活躍しておりブロンズメダルを授与されています。
戦後は心身ともに傷つき長く療養生活を続けたそうです。
ドロシーが亡くなった翌々年に再婚し2006年に87歳の生涯を閉じました。
第二次世界大戦で良心的兵役拒否者が名誉勲章を受けた唯一の例として長く語り継がれています。
デズモンドの貫いた信念はハクソー・リッジという名作を生み私たちに戦争とは何かを問いかけているのです。
戦争や神の存在という巨大なテーマを考える機会をくれた本作に感謝したくなりますね。
演技派揃いのキャスト
主人公デズモンド役を熱演したアンドリュー・ガーフィールド。
彼は『アメイジング・スパイダーマン』によりスターダムに駆け上がりました。
そんなデズモンドに辛くあたるジャック・グローヴァ―大尉のサム・ワ―シントンも微妙な心の動きを見事に演じています。
デズモンドを理解し行動を共にしてくれたスミティーの男気と孤独をルーク・ブレイシーが魅せてくれました。
日本兵も米兵も演技派を揃え見ごたえのある映画に仕上がっています。
『ハクソー・リッジ』を映画的に分類すると戦争映画であることは間違いありません。
しかし他の戦争映画とは違い『敵か味方か』という視点ではなく『それぞれの信念』にテーマを絞ったところに見どころがあります。
戦争を描くことで戦争を否定した素晴らしい作品でした。