拓実は冷静沈着で勉強も出来て顔立ちも端正でしたが、反面押しに弱く優柔不断でもありました。
また好きではない順に対して思わせぶりな行動・言動が目立っていたのも確かです。
そうした彼の性格は順からすれば「煮え切らない男」として映っていたのではないでしょうか。
最大の長所は最大の短所ということをこの指摘で自覚することが出来ました。
順の潜在意識を解放出来たから
二つ目に、順に暴言を吐かせる目的は暴言の内容自体ではなく順の潜在意識を解放することです。
彼女が幼少期以来ずっと声を出せないのも自分と同じで両親との離婚が原因でした。
つまり拓実から見た順は本質的に同じ苦しみを抱えた映し鏡だったことが窺えます。
そんな順の潜在意識を解放することで自分もまた潜在意識から解放されることを意味するのです。
結果は成功で順の頭にずっとあった“せい”を”おかげ”にして順を解放する役割を見事に果たしました。
順は異性ではなく魂の双子
順に本音をぶつけてもらったことで、拓実の中で順は好きな異性ではないとはっきりしたのでしょう。
だからこそ直後の順からの告白を即刻本音でダメだとぶった切ったのです。
拓実と順は表面上こそ正反対ですが潜在意識の魂のレベルも抱えてきた環境も似通っています。
だからこそ拓実にとっては同情や共感は出来ても異性としての憧れにはなりません。
そして改めてずっと有耶無耶にしていた菜月と向き合う覚悟が固まったのではないでしょうか。
暴言という名の潜在意識を解放したことで順も拓実もやっと前へ進むことが出来るようになったのです。
子供はもっとのびのび育てるべき
こうして見ていくと、子供はもっとのびのび育てるべきであるというメッセージが窺えます。
四人の潜在意識を封じ込めていた子供たちは心を解放することで自分の声を取り戻していきました。
一見すると順をはじめとする子供たちは人間として最低に思えるかもしれません。
しかし、それは小さい頃から育ってた環境によるものであり、元から悪い子など居ないのです。
アプローチがやや独特なだけで、メッセージそのものは非常に真っ当な教育論を展開しています。
ましてそれは今親の顔色を窺う子供が多くなっていることからも明らかです。
心の叫びとは自分への問いかけ
突き詰めていくと、心の叫びとは即ち「自分への問いかけ」ではないでしょうか。
順たちが心を取り戻して本当の自分へ戻っていけたのは全て「自分への問いかけ」を行ったからです。
それも頭で考えるのではなく心の部分で感じたことを大事にしていくという形で。
人間が他の動物と違う素晴らしい所は物事を論理的に考えられることですが、理屈ありきではいけません。
論理とは自分の感覚を大事にした上でその感覚を具体的に筋道立てていく道具でしかないのです。
この順序を間違わずにいることでどんどん自分らしくなっていき、人生も豊かになります。
そのことを4人の高校生の生き様へ凝縮した名作として残り続けることでしょう。