出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B075QW4PKB/?tag=cinema-notes-22
映画『心が叫びたがってるんだ。』は『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない(あの花)』のスタッフが再結成して作った作品です。
監督の長井龍雪・脚本の岡田麿里・キャラクターデザインの田中将賀という伝説の超平和バスターズの再来は受け手を興奮させました。
キャストには水瀬いのりに内山昂輝・細谷佳正と実力のある声優達が挑戦しており、2015年公開の作品として封を切られています。
第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門・審査委員会推薦作品に指定され、以下を受賞しました。
第39回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞
第25回日本映画批評家大賞新人声優賞
ブリュッセル・アニメーション映画祭 (Anima) BeTV最優秀長編アニメーション賞引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/心が叫びたがってるんだ。
本稿では成瀬がラブホテルに逃げ込んだ意味をネタバレ込みで考察していきましょう。
また、母が順の歌に号泣した理由や拓実が暴言に感謝した理由も併せて見ていきます。
子供らしからぬ子供たちへ
本作のメインテーマは「子供の心」なのですが、そのテーマの背景にあるのは「子供らしからぬ子供たち」です。
主人公・成瀬順をはじめ拓実・菜月・大樹はいずれも自分らしさを出せない子として描かれています。
順は小さい頃に父の不倫話を母にしたことから離婚を招き、巧実も両親が教育方針で対立しての離婚。
更に菜月は優等生タイプ故に「良い子」を演じており、大樹は甲子園の夢を断たれて右肘を故障しました。
各々抱える問題に差はあれど閉塞感から自己表現が上手く出来ない子達であることが共通しています。
そんな4人の姿は今巷に溢れている「子供らしさのない子供たち」の象徴ではないでしょうか。
今の子供たちの複雑な問題を切り取り、そこにどのような答えが生じるかが本作の見所です。
ラブホテルに逃げ込んだ意味
本作の主人公・成瀬順は何とミュージカル公演当日に自分の役割をすっぽかしてラブホテルに逃げ込みました。
やっていることは確実に人間として破綻していますが、何故わざわざ逃げ込んだ場所がラブホテルなのでしょうか?
このラストシーンに込められた意味を考察していきましょう。
順の破綻した人間性
このシーン一番の意味は順の破綻した人間性の表現であり、彼女のやったことは人間として最低です。
勝手に拓実に期待して勝手に拓実に裏切られたと感じ、そして自分勝手に公演の主役をすっぽかしたのですから。
しかし、ここで大事なのは何故彼女がそんな破綻した人間性になってしまったのか?ということです。
逃げ込んだ場所が既に廃墟となったラブホテルであることが全ての答えを示しています。
そう、彼女はこの終盤に至るまで小さい頃に経験した両親のトラウマから抜け出せずにいました。
つまり順の破綻した人間性の原因が全ては幼少期のトラウマにあることを示しているのです。
廃墟と化したホテル=過去のダメな自分
ここで大事なのは順が逃げ込んだラブホテルが既に廃墟と化しているということです。
これはつまり拓実に振られるのを恐れる余りに過去のダメな自分に逆戻りした証ではないでしょうか。
呪いがかかって自身の声が出ない自己暗示にかかっていましたが、それは自己肯定感の低さ故でした。
即ち彼女は自分がダメ人間に逆戻りしたと思い込んでおり、だから父が不倫した場所へと逃げ込んだのです。
拓実のお陰で解放されかけていた順の自我がここで再び過去へと逆戻りしたことを強調しています。
成長には痛みが伴う
順は思い切って拓実に想いを伝えますが、結果としては見事なまでの玉砕で初恋は実りませんでした。
それはある意味因果応報の部分もあり、自分勝手に動き回っていたツケでもあるのでしょう。
しかし、それ以上にこのシーン一番の意味は「成長には痛みが伴う」ということです。