出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B0716M5LG8/?tag=cinema-notes-22
映画『ボクの妻と結婚してください。』は樋口卓治の小説を2016年に映画化した作品です。
2014年に舞台版、2015年にテレビドラマが作られ、そちらは内村光良と木村多江が主演でした。
監督は三宅喜重、キャストは織田裕二と吉田羊を中心に充実したメンバーです。
あらすじは放送作家・三村修治が余命6ヶ月と宣告された日から妻・彩子の結婚相手探しに奔走します。
本稿ではラストシーンで読まれる修治の手紙の意味をネタバレ込みで考察していきましょう。
また週刊誌に載った理由や正蔵がお見合いを了承した理由も併せて読み解きます。
感動作に見せかけたブラックジョーク
本作は一見家族思いの温かいパパが余命宣告を受けて死を迎えるまでの日々をハートフルに描いています。
三村修治のキャラ並びに彼を取り巻く色んな人達とのふれあいなど設定・展開共にありきたりです。
演出もまた見せ方が上手いだけに感動作のようですが、それは見せかけで本質はブラックジョークに満ちています。
まず膵臓癌で余命宣告を受けた人が自分の妻を別の人に簡単に譲るなんてことが出来るでしょうか?
重たい病気を抱えたのに周囲の気持ちを無視してヘラヘラ笑っていられる余裕はないはずです。
お涙頂戴にしては修治に振り回される周囲のツッコミや呆れぶりが浮いて見え、違和感となります。
そう、この違和感こそが本作の真の狙いであり、この観点に着目して考察していきましょう。
修治の手紙の意味
膵臓癌でこの世を去る修治ですが、彼はラストで息子の陽一郎と妻の彩子宛に手紙を遺しています。
果たして手紙に込められた意味は何だったのか、手紙の内容と共に考察していきましょう。
価値観の押しつけ
まず一つ目に挙げられるのが修治の自分勝手な理想の押しつけです。特にこの部分に窺えます。
飲み会には必ず三次会まで行くこと。そこまで残った人にしか聞けない話があります。酔っぱらった先輩のおもしろい話を酔い潰れるまで聞きなさい。
引用:ボクの妻と結婚してください。/配給会社:東宝
将来の飲み会のマナーやあり方など中学生に入ろうとする年端もいかない息子にする話ではありません。
確かに飲み会でしか聞けない話はありますし、大事な人生やビジネスの話はそういう所にあるものです。
しかし、その選択は陽一郎自身の意志で行うべきであり、父にそれを強制される謂れはないでしょう。
しかもこの手紙が陽一郎の部屋に無許可で貼り付けられていたというのが余計に怖さを増します。
父と息子で埋められない価値観の溝があることを示しているのです。
一方通行の愛
二つ目が妻・彩子との一方通行の愛であり、修治は追伸でこう書き記しています。
追伸
お母さんに伝えてください。大好きです、会ったその日から。そして今も…いつかまた巡り会えたならボクと結婚してください。引用:ボクの妻と結婚してください。/配給会社:東宝
一見妻想いの温かい旦那に思えますが、決してそうではなくかなり一方的です。
膵臓癌であることを秘密にして彩子を激怒させ、クッションを殴らせてすらいます。
タイトル通りの再婚話にしても彩子や再婚相手の正蔵の意志は無視してお見合いをさせました。
確かに愛してはいますが、彩子もそのように感じていたのかという深い話し合いはされていません。
そうした温度差がこの手紙の追伸によってより浮き彫りとなっているのはないでしょうか。
天才過ぎた放送作家
この手紙が示す修治の本質は余りにも放送作家として天才過ぎたことではないでしょうか。