アボットはパメラを目の前にして「愛国者」という口実を作って自決しました。

しかし、本当に愛国者だったのかというとそうではないでしょう。

まず本当の愛国者であれば自分の部下を利用して平気で居られるわけがありません。

石油国王とのことにしてもその方が自分に利があるからではないでしょうか。

即ち他者から奪うことしか考えていない愛国者気取りの偽善者、それが彼の本質です。

言質を取られてしまった

二つ目が上記した内容と被りますが、ボーンによって言質を取られてしまったからです。

しかもその後ボーンは録音した音声テープをきちんと提出していますから逃げようがありません。

即ち、もうスパイとしてアボットが出来る役割はもう何もないのです。

最大の誤算はボーンの強さと執念深さを見誤っていたことではないでしょうか。

政治的確信犯の揶揄

確信犯 (角川文庫)

そんなアボットの姿はいってしまえば政治的確信犯の揶揄ではないでしょうか。

政治的確信犯とは往々にして国のことを考えているようで考えていない人が多いといわれます。

彼も正にその一人であったといえますが、非常に皮肉なものです。

利用するだけ利用して相手が居なくなったら平然と切り捨ててしまう。

正にジェイソン・ボーンとは真逆の存在として最期まで正義に屈しなかった人と推測されます。

罪を背負う

罪の轍

そしてジェイソン・ボーンが本作のラストで辿り着いた境地は「罪を背負う」ことでした。

彼が修羅の連続の果てに辿り着いたのはトレッドストーン計画で自身が最初に殺した人の娘です。

即ち真相を知るということがボーンに最も致命的な精神的ダメージを負わせています。

ラストシーンで示しているのはアボットとは対照的に大義名分で罪から逃げないボーンの姿です。

一生消えない傷跡と戦うことになりますが、同時にこの瞬間にジェイソン・ボーンは完成を迎えました。

まとめ

罪と罰 (まんが学術文庫)

こうしてみると、本作で描かれていたのは何よりもジェイソン・ボーンの罪と罰ではないでしょうか。

難解な要素を振りかけてきましたが、物語の本質は非常に根源的な問題です。

その根源的な問題へ辿り着くことがボーンの魂のステージを最高に高めてくれます。

彼は何があろうと自身がスパイとして犯した罪と向き合わないといけません。

だからこそマリーでは彼の罪の重さを背負いきれず死ぬことになったのでしょう。

これから永遠に続くボーンの孤独な戦いを示したストイックな一作です。

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