生まれ育った家を、自分の意志によって出ていくことが、彼が大人になるために必要な通過儀礼だったともいえるのではないでしょうか。
仲間との再会が示すこと
岐阜から自らの意志で東京に戻ったルドルフ。
仲間と再会した際の心情はどんなものだったでしょうか。
新しい場所、仲間、帰る場所
彼が東京に戻る選択ができた背景には、そこにブッチーなどの仲間がいたことも大きいでしょう。
はじめ、岐阜に帰れず途方に暮れていたルドルフ。東京で様々の事を学ぶことで、徐々に自分の存在を確立していきました。
それは猫だけでなく、人間やデビルなども含めた「他者との関係」によって構築されたもの。
東京という場所には、「飼い猫ルドルフ」ではなく、一匹のノラ猫としてのルドルフの居場所がありました。
仲間が彼を迎えてくれたことで、ルドルフはそれを再確認できたはず。
仲間の存在は、「ここが自分の居場所である」という実感を与えてくれたと推察できるのです。
教養が与えてくれたもの
岐阜に戻る直前の、ルドルフとイッパイアッテナの会話にも注目です。
ぼくだってもう大人だよ
イッパイアッテナが教えてくれたことは 無駄じゃないよ引用:ルドルフとイッパイアッテナ/配給会社:東宝
言い切れるルドルフは、もう一匹の自立した存在です。そう思えるのは、東京で学び、仲間を得たから。
教養を持つことで、生きていく自信を得られる。イッパイアッテナが最初に教えてくれたことです。
結局は東京に戻ってくることになっても、最初に望んでいた結末とは違っているかもしれないけれど、きっと大丈夫。
そんなメッセージを、観客はルドルフが成長する姿にしっかりと見出すことができるでしょう。
「イッパイアッテナ」その名前の意味
最後に、「イッパイアッテナ」という名前について考察します。ここにはどんな意味が込められていたでしょうか。
物語のラスト、「野良猫から飼い猫に戻るの?」と聞かれたイッパイアッテナは答えます。
名前がいっぱいあるのと同じだ
飼い猫だろうが野良猫だろうが 俺は俺だ引用:ルドルフとイッパイアッテナ/配給会社:東宝
状況や場所が変われば名前も変わる。そして、名前に振り回されることのない自己を獲得したということ。
そう理解できることが「教養」の力とも考えることができるでしょう。
この作品のキャッチコピーは、「ぼくらはそれでも前を向く。」。
誰しも生きる中で、時にどうしようもできない状況に流されて傷つきます。
そんな時、自分で物事を判断できるようになるため必要なのが「教養」。
名前がいっぱいある猫「イッパイアッテナ」は、そう教えてくれているのです。