しかしアレハンドロはそうしませんでした。それは、アレハンドロの経験を考えると分かります。
拷問のエグさではだれにも負けない
前作『ボーダーライン』でもアレハンドロは登場していますが、今作に比べるとかなり酷い拷問をする人物でした。
徹底的に相手を拷問するアレハンドロ自身は、少なからずこれまでに何かしらの苦痛を与えられる場面に出くわしたはず。
そう考えたとき、銃で顔を撃たれた「程度」では、アレハンドロの心は折れないのです。
何といっても自分自身が過去、他者に与えてきた苦痛の方がはるかに大きな苦痛を伴う物でした。
それを行ったアレハンドロは、次なる一手を打つために生き抜くことができるのです。精神的タフネスさは、通常の人では勝てないでしょう。
カルテルの一員としての資金力
広大な砂漠で放っておけばいずれ死んでしまう重症を負い、誰も助ける人がいないのであれば、抵抗する意思もなくなるでしょう。
しかし、実はアレハンドロはメキシコではなく、コロンビアの麻薬カルテルの一人です。
前作のアレハンドロは、メキシコの麻薬戦争を引き起こさせておいて、最期には自身がコロンビアのカルテルを作るつもりでいました。
つまり、本作においてはコロンビアの麻薬カルテルのボスとまでいかないにしても、かなり上位の存在であると言えます。
例え顔に大きな傷をつけられていても、何とか連絡さえ取れればあとはどうにでもなるはず。
実際に本作ラストでミゲルと店の奥であった時には、ほほにあるはずの傷がなくなっています。
高額な整形費用もカルテルの資金力で、何とでもなることを示唆するシーンでした。
シリーズ第一作『ボーダーライン』より
シリーズ第一作は、エミリー・ブラントが演じるケイト・メイサーが主役でした。
しかし続編である本作には出演しておらず、代わりに主演をベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロが務めたのです。
こちらの作品で語られる内容と本作の内容を見れば、なぜアレハンドロがイザベルを殺さないのかが分かります。
結論から言うと、アレハンドロは元は娘思いの良い父親だったのです。
娘は酸につけられて殺される
前作『ボーダーライン』登場時から、アレハンドロは暗殺者の風貌を醸し出しています。
しかし作中で語られるのは、アレハンドロが「妻子を麻薬カルテルに殺された元検察官」でした。
カルテルに家族を殺害されたコロンビアの元検察官、アレハンドロ・ギリックをリクルートし
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ
しかも娘に関しては、酸につけられて殺されます。
元検事であることや妻子がいたことから、アレハンドロは元は善良な市民であることが予想されるのです。
そんな過去も相まって、イザベルを見たときには娘を思い出し、殺すことができないのでした。
前作で復讐は遂げている
前作では、妻子を殺されたアレハンドロが、メキシコにある麻薬カルテル「ソノラ・カルテル」のNo.3のファウストに復讐を果たします。
このファウストはアレハンドロの妻子殺しを命じた人物です。
その際、ファウストだけでなく、ファウストの妻と二人の子どもも容赦なく殺害しました。
そう考えると、アレハンドロの復讐は終わっているのです。
カルロス・レイエス。お前に任せる。家族の仇をうてるチャンスだ。戦争を始めさせる
引用:ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ/配給会社:コロンビア映画
確かに本作でマットに会った時、マットはこのように言いました。つまりカルロスはファウストのもっと上の地位にいる存在。
だからこそ、マットは「家族の仇」と言いますが、ファウスト一家に復讐を遂げたアレハンドロにはもう復讐心はありません。
それは後述するアレハンドロのセリフからも伺えます。
アレハンドロにとってのイザベル
本作中のアレハンドロとイザベルの会話にも、アレハンドロがイザベルをどう見ているかが分かる場面がありました。
会話を聞くと、アレハンドロには最初からイザベルを殺すつもりはなかったことが分かります。
イザベルとの約束1:捜査官としてのシーン
アレハンドロは自身の誘拐を、カルテル同士の争いに見せかけてイザベルを誘拐し、自分は捜査官であるかのようにふるまいます。
君は安全だよ。安心しろ。もうすぐ帰れる
引用:ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ/配給会社:コロンビア映画
これが捜査官としてイザベルに対して言った一言。
普段寡黙なアレハンドロが、このようなセリフを吐くことはほとんどありません。
なぜなら、アレハンドロが人から何かを聞き出す時は、命と情報を天秤にかけさせる拷問を行うからです。