作品全体を通して、彼は余りにも周囲の理解の無さに呆れ絶望していたことが窺えます。

児童虐待や後半のシーンにおける神父の絵の酷評など弟テオ以外誰も理解者になってくれません。

そしてそのテオは皮肉にも自分を無理矢理社会と繋げようとしてしまうという矛盾が生じています。

だから本当の意味でゴッホの理解者となってくれた人は居なかったのではないでしょうか。

そんな社会との断絶を果たす為の儀式として雑音を入れないように耳を切り落としたと思われます。

若者をかばった理由

狼を庇う羊飼い (扶桑社ミステリー―私立探偵レオ・ハガティー・シリーズ)

本作のラスト、ゴッホは少年2人に銃で撃たれ絵を盗まれてしまいました。

この少年達は殺人罪と窃盗罪に問われてもおかしくないのにゴッホは咎めませんでした。

何故咎めなかったのかを読み解きます。

目先ではなく未来の為

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

まず1つ目の理由としてゴッホは目先ではなく未来を見据えていたのではないでしょうか。

神父とのカウンセリングで自身の絵を酷評された時にその意義を未来の為と語っています。

だから、少年達の目先の盗みや殺人など彼にとっては小さなことなのでしょう。

決して罪に対して寛容ではなく、孤独に絵を描き続けている内に精神が達観したのです。

逆にいうと、そうせざるを得ない程に彼の人生は苦しみと孤独の連続だったことが窺えます。

児童虐待の罪と罰

罪と罰(上)(新潮文庫)

実はこのラストシーンは前半で描かれた児童虐待のシーンとの対比になっています。

前半でゴッホは自分の絵を揶揄・批判してくる少年達に怒って親との揉め事を起こしました。

このことから彼は自身の大切にする絵を踏みにじることを誰よりも嫌う性格だと分かります。

その前半で行った児童虐待の罪の因果応報がラストで返ってきたのではないでしょうか。

その罪を自ら恥じて罰として受け入れるというやや宗教がかったニュアンスが入っているのです。

ゴッホ≒イエス・キリスト

イエス・キリストの霊言 ―映画「世界から希望が消えたなら。」で描かれる「新復活の奇跡」― (OR BOOKS)

1つ目の理由で述べた神父とのカウンセリングで、ゴッホは自身をイエス・キリストに喩えていました。

即ちゴッホは自身の死をイエス・キリストに準え神格化しようとしたのではないでしょうか。

このラストシーンのゴッホ他殺説は本作の独自解釈であり史実とは異なる脚色です。

その解釈から考察すると、本作のゴッホはキリストのような崇高な神の子なのでしょう。

沢山の絵に囲まれながら死に向かう永遠の門を開けるラストシーンは神秘性がありました。

ゴッホはこの瞬間に神様となってその魂が後生に神様の如く残るという完璧な結末です。

誰がゴッホを死に追いやったのか?

ゴッホの死は他殺―完全犯罪の仕掛人はゴーギャン

直接的な死因は少年達の他殺でしたが、しかしゴッホの死因は他にもあるはずです。

ここでは何者が彼を死へと追いやったのかを考察していきましょう。

無理解な世間の人たち

まず挙げられるのはゴーギャンや少年達を含む無理解な世間の人たちでしょう。

ゴッホを精神病扱いした医師や絵を酷評し理解を示さなかった神父も含まれます。

もっといえば「世俗に染まりきった人たち」という当時の社会全体です。

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