声を失うほどぼろぼろになってしまったバンブルビーが、チャーリーとの出会いをきっかけに自分自身を取り戻していく描写。
それと共に、父親を亡くした悲しみから立ち直れずにいる18歳の女の子が、バンブルビーと友情を育み孤独を克服するストーリーは、例えロボットであっても「ヒューマンドラマ」に他ならないでしょう。
チャーリーとバンブルビーの共通点
廃車寸前の黄色いビートルをスキャンし、チャーリーが修理を試みるまで機能を停止していたバンブルビー。父親を亡くしたチャーリー。
実はチャーリーの孤独な心境とバンブルビーの境遇は一致する点が多くあります。
新しい環境に身を置くようになったこと、周囲から孤立していること、つらい出来事に直面してトラウマを抱えていることなど、二人の間には共通点が多いのです。
チャーリーがビートル(の姿をしたバンブルビー)を欲しがった理由は、自分の境遇とバンブルビーの姿を重ね合わせて共感していたからなのでしょう。
ヒロインの成長と結末に共感
過去5作品では、主人公であるサム・ウィトウィッキーやケイド・イェーガー、周囲の人間たちは戦いに勝利して争いを収束させたヒーローとして描かれ、どちらかといえば彼らのサクセスストーリーの側面が強く出ていました。
本作もまた、敵側のトランスフォーマーに勝利して米軍の追撃から無事逃れたバンブルビーのサクセスストーリーだといえなくもありません。
しかし観る者の心を揺さぶったのは勝利の歓喜ではなく、主人公が明るさを取り戻し成長していく姿ではないでしょうか。
チャーリーはヒロインとして戦いの中で活躍する一方で、バンブルビーとの友情が呼び水となって人間の友人を得ることができました。
またバトルの中で手助けをしてくれた家族に対して素直に感謝を告げ、家族とのわだかまりを克服するきっかけを掴みました。
チャーリーは18歳で思春期の女の子。同世代のみならず、青春時代の葛藤を思い出して共感した大人も多かったことでしょう。感情を揺さぶるのは他者の感情なのです。
監督が選ぶ見どころ
トラヴィス・ナイト監督は、バンブルビーと人間の絆を描いた本作の中で最も重要なシーンとして次の場面を挙げています。
トランスフォーマー(シリーズ)の中でも人間との絆が深い。その理由を描くことができた。見どころはビーが話し方を見つける過程だ
出典元:https://bumblebeemovie.jp/news/2019/02/13/origins/
バンブルビーとチャーリーの絆が強固なものになり、さらにはバンブルビー自身の成長も読み取れる重要なシーンです。
コミュニケーションの方法を模索するバンブルビーと、それを見守るチャーリー、そして成功を喜ぶ二人。誰もがどちらかに感情移入でき、喜びを共にできる場面ではないでしょうか。
『バンブルビー』が心を揺さぶる作品に仕上がっている大きな理由は、ナイト監督自身がキャラクターの心の描写に徹底的に注力したからなのです。
SFアクションでは括れない『バンブルビー』
トランスフォーマーシリーズの中でも特に人間味あふれるバンブルビーが、初めてにして最高の相棒を見つけ、共に歩み、立ちはだかる様々な困難を一緒に乗り越える物語『バンブルビー』。
ジャンルでくくるなら「SFアクション映画」でしょう。しかし多くの観客の共感と感動を呼ぶ点でいえば「ヒューマンドラマ」かもしれませんね。
『バンブルビー』はシリーズでは異色の作品となりましたが、新たな監督の手によって過去5作品にもさらなる魅力が加わりました。
本作品でキャラクターのルーツや内面が理解できたら、過去5作品を観返して理解を深めるのも楽しいですね。