しかし、後半では禁断症状・幻聴・幻覚に苦しめられ、再び治療センターにお世話になるのです。

ここからはもう収集がつかず、1度お互いの手を離す所までいってしまいます。

2人の絆は無残にも薬物によって何度も破壊され、その度に再生を繰り返しているのです。

それだけ薬物依存が人間の手に負えない強烈なものであるという証左でありましょう。

裏切り・不義理

2つ目に薬物依存によって息子による裏切り・不義理が何度も発生しました。

金の無心だけならまだしも後半に入ると恋人と共に窃盗まで働きかけます。

父デヴィッドからしたら、裏切られたも同然ではないでしょうか。

あれだけ優しかった息子ニックが薬欲しさにそこまでしてしまうのです。

しかし、その裏切り・不義理がなければお互いの大事さを分かることはなかったのですから皮肉なものです。

仲睦まじい幼少時代

そして3つ目に仲睦まじい幼少時代が回想されますが、これは悲惨な現在との対比でしょう。

2人は大好きな音楽を聴きながら口ずさみ、円満な父子の関係だったのです。

その仲睦まじい幼少時代には決して戻ることが出来ないことを現在の描写が痛烈に示します。

勿論子供が成長すれば親子の距離感や関係性だって自然に変わっていくものでしょう。

しかし、薬物で強制的に悪い方向に変わってしまう親子関係は余りにも無慈悲です。

きっと2人の関係は再生出来たとしても完全な再生は不可能なのではないでしょうか。

本来の自分から偽りの自分へ

“偽りの自分”からの脱出

こうして見ていくと、薬物は本来の自分から偽りの自分へ変えてしまう危険なものだと分かります。

親子の絆をテーマにした作品は本来偽りの自分から本来の自分へ回帰していき、最後で再生するものです。

しかし本作では無残にも薬物依存によってニックがどんどん本来の姿から遠退いてしまいます。

そして本物であった父デヴィッドとの絆も偽りのものになっていかざるを得ません。

美しさはありながらも、無慈悲さや無常さといったマイナスが勝ってしまうのです。

救いだったのはニックが何とか夜回り先生のいう「辞められた3割の人間」に入れたことでしょう。

それでも油断すれば簡単にまた偽りの自分にしてしまうのが薬物依存の何より恐ろしい所なのです。

薬物依存は他人事ではない

薬物依存症 【シリーズ】ケアを考える (ちくま新書)

いかがでしたでしょうか?

本作を見ても尚薬物依存をどこか自分には無縁な対岸の火事だと思う人もいるかもしれません。

というか、そういう方が大半を占めているのではないでしょうか。

薬物は決して他人事ではなく、油断している人のところにこそそっと忍び寄ってきます。

薬物依存がどんなものであるかなど、ニックのようにかかった人以外は分からないでしょう。

しかし、薬物依存は本人のみならず周囲の人たちとの関係性まで全部を無慈悲に破壊するのです。

それを父デヴィッドの視点から語らせることで主観にも客観にも偏り過ぎない見事な名作でした。

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