まさに『let it be』な人生です。

宇宙人がモリを誘った真意を深読み

熊谷守一カレンダー2020年版-カレンダー-熊谷守一

ストーリーに影響を与えるわけではありませんが宇宙人の出現はニヤッとしてしまう面白い仕掛けでした。

この宇宙人はモリの熱烈なファンのようですね。ずっと一緒にいたいと思っているほどモリに心酔しています。

宇宙人はなぜモリを宇宙に誘ったのか

あの宇宙人はモリ以外の人間を表現しているのではないでしょうか。

あの狭い庭だけで生きているモリに『もっと広い世界があるのだよ』と知らせることが親切だと思っている俗世間の象徴です。

宇宙人はモリの池と宇宙が繋がったと言いました。

これはモリの人生が世間に広く知られることになったことを表しています。

そして『もっと自分を表に出せば世論を味方につけてマンション建設も中止にできるかもしれないよ』と誘っているのです。

しかしそれはモリの望むことではありませんでした。

宇宙人がモリを連れて行くことをあきらめた理由

蒼蝿-熊谷-守一

宇宙人の誘いをモリはきっぱり断りました。その理由も秀子が疲れるからという俊逸なセリフです。

この言葉の中には秀子に対する感謝や愛情が詰まっています。

モリに断られた宇宙人は寂しそうに去りました。断った理由が『怖い』とか『興味が無い』だとしたらもっと粘ったことでしょう。

しかし理由が秀子ならもう何も言うことは無いのです。

モリのいる場所とは

虫時雨―熊谷守一の素描・水墨画-熊谷-守一

世間と交わることを拒絶するかのような夫婦の暮らしですが、彼らは拒んでいるわけではありません。

熊谷夫婦は『身の丈』にあった暮らしができれば十分だと考えているだけだと思えます。

モリが今のモリでいるためには秀子が必要ですし、秀子もモリと出会わなければ今のような暮らしはしていないでしょう。

モリのいる場所は『秀子のいる場所』なのです。

出会わなければ別の人生を全うしたはずの二人が出会った結果が『今の暮らし』でした。

二人の暮らしぶりに魅かれ集う人々はこの家に『日本人の原風景』を透かしてみているのではないでしょうか。

現状を悲観せず身の丈に合った人生を精いっぱい謳歌する日本の心を沖田修一監督は描きたかったのだと思います。

名優の競演に見る日本映画の醍醐味

モリのいる場所-朝日文庫-小林雄次

同じ文学座で育った二人の名優『山﨑努』と『樹木希林』の初共演作品が『モリのいる場所』です。

この二人に関しては何を語る必要もないほどでしょう。

日本演劇界の至宝ともいえる二人を囲む名脇役たちも、この役はこの人でなくては成り立たないと思えるほどのメンバーです。

池谷のぶえの美恵ちゃんは他の人では出せない味わいがありました。

現場監督もマンションオーナーも旅館の主人もカメラマンも実在していたとしか思えないほどの名演技です。

宇宙人も本当に来ていたのかもしれませんね。

今は美術館になっている熊谷守一邸。