しかしその関係は決して情が絡まない性だけの関係性でありました。
そう、哲雄にとって理香は単なる性欲やストレスの捌け口でしかなかったのです。
性愛≒ラブドール
哲雄とひろ子の浮気で本作のラブドールが何なのかがしっかり示されています。
それは情のない単なる肉体だけの割り切った関係の揶揄・皮肉なのです。
元々ラブドール・ダッチワイフとは男性・女性の性欲を満たすものとして開発されました。
ということは愛情を伴わない性の関係もまたラブドール・ダッチワイフではないでしょうか。
それまでお互いずっと嘘や秘密を隠していたことが見事にラブドールの意味と絡み合うのです。
この展開へと繋げていったのは本作改会心の出来映えでありましょう。
園子の秘密の真相
哲雄とひろ子の浮気が発覚したタイミングで今度は園子の秘密が打ち明けられることになります。
それが彼女の死とも繋がる重大な物だったのですが、物語はここで一気に核心へと近づくのです。
ここではその秘密の真相を解き明かしていきましょう。
浮気と胃癌
園子が打ち明けた衝撃の秘密とは浮気と胃癌であり、これが2人の夫婦関係に影を落します。
問題は秘密そのものではなく、園子の胸中を理解出来なかった哲雄の不甲斐なさでした。
哲雄はここで5年もの歳月を共にしながら園子のことを見ていなかったことを恥じたのです。
そしてまた園子も自身の抱える秘密から一緒にいられないと思い込んでいました。
展開としてはありがちですが、絶妙なのはこの2人の関係が上辺だけだったということです。
即ち哲雄とひろ子の関係の裏返しであったといえるのではないでしょうか。
性愛と情愛の一体化=ロマンスドール
しかし、秘密を打ち明け一緒にいる覚悟を決めた哲雄と園子はようやく真の夫婦になれました。
決して情愛だけではなく、また肉体だけの性愛でもない性愛と情愛の一体化がなされます。
2人は何度も何度も体を重ねることで全てを埋め合わせるように惜しみなく愛を与えたのです。
これが「ロマンスドール」の真の意味であり、心と体が1つになって初めて本物の愛となります。
そうして出来上がった園子のラブドール「そのこ」は唯一無二のロマンスドールではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本作が示す愛とは「情」と「性」との両方が絡み合ってこそ出来るものとして示されました。
題材が題材だけに差別や偏見の目をもって見られることもあるかもしれません。
しかし、人間にとって「性」と「愛」は決して切り離して考えることが出来ない問題です。
芸術においても映画においても、その歴史の発展にエロスがあってこそ果たされてきました。
万人受けこそしないものの、性と愛の関係に独自の視点から鋭く切り込んだ逸品ではないでしょうか。