最終的にロイは宇宙の彼方に漂っていく父クリフォードを見送ることになりますが、この時点で彼の抑圧された父親への思いは消えています。
このため地球に帰還したロイは妻のイヴと愛し合い、ともにお互いを委ねながら生きていく道を模索することができるようになりました。
その後のロイ
作品のラストでは変わったロイを受け入れると思われる妻の姿が描かれ、希望に満ちた未来が予見されます。
それでもロイが父親との関係で幼少期から失ってきた当たり前の人間性を取り戻すには今後困難が予想されると考えざるを得ません。
「先のことはわからないが、心配はしていない」とするロイの心の言葉は当たり前すぎて見逃しがちですが、抑圧から解放された彼を象徴しています。
父クリフォードが自ら命綱のフックを外した理由
作品のクライマックスでロイの説得に一度は耳をかした父クリフォードは結局自ら命綱のフックを外し、地球への帰還を拒みます。
このときのクリフォードの心理状態はどのようなものだったのでしょうか。
地球外生命体の探索というミッションを達成できない状態で帰還する自らを恥と考えた故の行動ではなさそうです。
もちろんクリフォードが自ら語ることはありませんので、その心理は推測するしかありませんが、少し彼の心の中に分け入ってみましょう。
自らのミッションにこだわるクリフォード
ロイの父親クリフォードは仕事に全てを賭ける頼もしい父親像の象徴です。
ミッションのためなら他者の命を奪うことも躊躇しないという姿勢は、世間一般の常識からはやや理解しにくい部分はあります。
彼は自らの存在意義をそのように定義し、それを徹底することを通じて自らを生きたのです。
父クリフォードと同じ道を辿るロイ
ロイは心の中では家庭をも犠牲にする父親を決して肯定してはいなかったはずです。
しかしながらロイは皮肉なことに父親と同じような行動をとってしまいます。
事故的な要素があったにせよロイは海王星に向かう宇宙船に乗り込もうとして、それを阻止しようとする他の乗組員を犠牲にしてしまうのです。
クリフォードの選択
想像だにしなかった息子ロイが現れ自分を地球に連れて帰ろうとしたことにクリフォードの心は揺れたことでしょう。
一度はロイの説得に委ねたように見えますが、実はその時点でもクリフォードには地球に帰還する意志はなかったのです。
宇宙軍の狙いであったリマの破壊任務を遂行しようとするロイの姿勢と、自分を地球に連れ帰ろうとするロイへの理解はありました。
幾多の危機管理を経験したクリフォードは自分が帰還するケースとそうでないケースを比較したはずです。
ロイのことを思えば、ここで自分が消え去った方がロイの精神的な重みが軽減されるとクリフォードは判断しました。