冬香を殺したことに後悔を感じていた菊治は、手紙によって救われ自分で感じていた後悔が消えたのです。
冬香を殺したのは正解だった、と感じたからこそ出た呟きだったのではないでしょうか。
愛の裏にある家族
本作で描かれていたのは究極の愛ともいえる物語です。
しかし同時に、二人を取り巻く家族の不幸も描かれていました。
美しいだけの愛で終わらせないのが、原作者である渡辺純一の魅力ともいえます。
加害者の家族の苦しみ
元々自殺願望があったんだよ
お父さん利用されただけだったんだよ
引用:愛の流刑地/配給会社:東宝
娘高子は、父親である菊治を愛し正当化しようとしています。
しかし裁判では利用されたわけではないという事実が明確になっていきました。
家族にとって、娘にとって父親が不倫の末に殺人を犯したということは耐え難いことでしょう。
マスコミから追いかけられる元妻や娘の姿に「愛」というものがいかに自己中心的なのかを感じずにはいられません。
被害者を糾弾する場所
仲村トオルが演じる夫徹は、妻を大切にしていないことで責められています。
私は忙しいんですよ
東京の新しい病院を受け持たされて朝から晩まで走りまわっているんです
引用:愛の流刑地/配給会社:東宝
仕事ばかりで彼女のことを何もわかっていない男、という印象でしょうか。
しかし、あくまでも彼は被害者であり糾弾される立場ではないはずです。
劇中でも徹はそのことを口にしていました。
実際の裁判でも、被害者側が辛い思いをすることは沢山あります。
「愛」というわがままが引き起こした殺人は、家族を不幸にするものであることがしっかりと描かれているのです。
愛は盲目
私は選ばれた殺人者なのです
冬香の為にどんな罰でも受けたいと思う
引用:愛の流刑地/配給会社:東宝
菊治は裁判中に上記のセリフを口にしていますが、あくまでも自分が罪を受けるのは愛する冬香の為です。
勿論、殺した人物が冬香なのだから当然のことですが、罰を受けるのは辛い思いをしている家族の為でもあるのではないでしょうか。
冬香と菊治は愛という罪に溺れた罪人という捉え方も出来るようです。
愛を罪にした傑作映画
人を愛することが罪になり、家庭のある大人が純粋な恋愛をしたら行きつくところは「死」でした。
本作は渡辺純一ワールドを堪能できる名作映画となりました。
何度も映画を観返すうちに、冬香が死を選んだ理由が様々観えてきます。
噛めば噛む程味の出る映画ではないでしょうか。