エディは地球外生命体という完全なる異物に寄生されながらパニックに陥ることはありません。何とか上手くやってゆこうとするのです。
その姿を見れば、多くの人がどんなに自分と違うものでもどこかに通じ合うものがあるのではと思わされることでしょう。
エディはヴェノムと一心同体になることで新たな人生を切り開きました。
世界もまた同様に分断を乗り越えれば新たな歴史のステージに行けるのかもしれません。
環境危機に無責任な世界への糾弾
シンビオートに寄生されたドレイクはライオットとなりロケットで地球から飛び立とうとします。
ドレイクは環境破壊が進む地球からの脱出を願い、シンビオートとの融合で宇宙にも住める生命体になろうとしていたのです。
その姿には人類のごう慢さも重なります。現在、先進諸国は宇宙開発競争に走り、いずれは他の惑星に移住することをもくろんでいます。
ヴェノムはドレイクの地球脱出を見事に阻みました。そこからは宇宙に目を向けて環境危機を置き去りにする現代社会への批判が読み取れます。
宇宙に行かずエディとの生活を取ったヴェノムに地球への愛を感じた人は少なくなかったのではないでしょうか。
ヴェノムの存在そのものが放つメッセージ性
ヴェノムという存在そのものについて深く掘り下げてゆきましょう。
知性と想像力に重なるヴェノム
何にでも寄生して次々と生態情報を吸収し進化してゆくヴェノムは一見するとまったくの異生物です。
が、その本質に目を向けると人間からそう遠いものだとは思えません。ヴェノムの元・シンビオートとは人間の知性や想像力にも重なるからです。
知性や想像力もシンビオートのように何にでもくっつき融合を繰り返して理論や創造をふくらませてゆきます。
それは脳の神経細胞・ニューロンの生態にも重なります。知性や想像力と同様にそれもまた目に見えるものではありません。
ヴェノムを生んだ作家マクファーレンにはそれを可視化したいという思いがあったのではないでしょうか。
いずれにせよ私たちの頭の中にはヴェノムとほとんど同じものがあるのです。
どんな才能にも必要な人間性の土台
ヴェノムと知性・想像力は、両方ともその根源に善悪のどちらかがあることで大きく変わってゆきます。
ヴェノムは善良なエディを選んだからこそ正義の存在になりました。逆に悪者のドレイクに寄生したシンビオートは極悪なライオットになります。
ヴェノム並みの結合力のある優れた知性の持ち主でも、その根源に悪があれば極悪人になる可能性があるでしょう。
マッドサイエンティストなどがその良い一例です。ヴェノムという存在が放つメッセージの核心には何があったのでしょうか。
それはどんな努力よりもまずは人間性の良き土台・倫理観を持つべきだという訴えなのかもしれません。
それがなければどんなに優れた能力の持ち主でもライオットやカーネイジのようになる恐れがあるのです。