遠藤が死んだのは自殺ではなく、自殺に見せかけた他殺でありました。
明智小五郎の方でも犯人は郷田であるという目星はとっくについています。
ここで恐ろしいのは照子は郷田が自身の好意を抱いていると知っていたことです。
知った上でその好意を遠藤の殺害に利用し自らは一切手を汚さないという怖さ。
照子のやったことは完全な教唆罪であり、立派な重罪であることを示しています。
その地頭の良さを賢く使えなかったのが彼女の可哀想な所でもあるでしょう。
遠藤がモルヒネを所有している理由
さて、歯科医の遠藤が死んだ理由はモルヒネによる服毒自殺に見せかけた他殺でした。
果たして彼は何故そんな危険なものを所有していたのでしょうか?
過去の自殺願望
まずきっかけとなったのは学生時代に女性と心中しようとしたことでした。
その時に女性と体を繋げたことで心中を思いとどまったのが大きなきっかけです。
つまり過去の自殺願望が遠藤の癖になってしまっていたのでしょう。
その時の経験により、遠藤は普通では満足出来ない体質になりました。
直子という婚約者がいながら、照子と浮気していたのもその現われです。
暴力の快感
2つ目に、それが間接的に暴力の快感にも繋がっているのです。
直子に対しても照子に対しても、遠藤は容赦なく暴力を振るいます。
モルヒネを傍に置いておくことで、その快楽を思い出すようにしているのでしょう。
それが同じ下宿相手の郷田に遠藤殺害を決意させるきっかけにもなっていました。
この辺りから如何に遠藤が人格破綻を起こしたサイコパスであるかが窺えます。
保険
3つ目に、遠藤はモルヒネをあった時の保険にしていたのではないでしょうか。
後半から終盤につれて、遠藤は直子や照子との関係が気まずくなっていきます。
そういう時にモルヒネさえあれば、2人の内どちらかを殺すか心中かが選べるのです。
直接に描かれていませんが、彼はモルヒネでいつでも死ぬ時の保険が出来ていたのでしょう。
そんな彼が最終的にそのモルヒネを郷田に使われ殺されたのが何とも皮肉な結果です。
郷田の自殺動機
郷田は証拠不十分により釈放せざるを得ませんでした。
しかし、彼は最終的に橋の上から飛び降り自殺を決行してしまいます。
ここでは郷田の自殺動機について考察していきましょう。
照子への思い
まず1番の動機としては亡き照子への思いがあったからでしょう。
直子に刺殺されたショックもそうですが、何より照子に好意を利用されたことです。
照子からすれば、郷田は騙しやすいチョロい男だと思われていたことになります。