実は草壁は暗い過去を背負っています。そのため人の痛みや苦しんでいる人への対応を理解していました。
演奏会で演奏する曲は当時未完成でした。彼自身もチカたちとともに乗り越えるべき何者かを持っていたのかもしれません。
なぜチカにソロパートを与えたのか
草壁は敢えて初心者のチカに未完成曲のソロパートを与えました。
失敗するリスクが極めて大きかったにもかかわらず、草壁はなぜそのような道を選んだのでしょうか。
彼はチカが壁に突き当たることをわかっていました。問題はその時のチカや部員たちの行動だと彼は考えていたのでしょう。
チカが演奏会で失敗することはたいしたことではないと考えていたのです。
チカの悩みを部員たちが共有して、皆で一体感を醸成できるかどうかが重要だと考えていたに違いありません。
その目論見は見事的を射ました。一度は空中分解しそうになった部員たちは演奏会前に団結できました。
譜面に書いた部員へのアドバイス
草壁は部員たちの自主性を大事にしていました。練習においてだめな部分はだめと指摘しますが、後は各自に委ねます。
チカは草壁の部員各自に向けた細かなアドバイスが書き込まれた譜面を偶然見つけました。
草壁はこれを部員たちに見せようとはしませんでした。自分自身で気づいて欲しかったのです。
この気づきによる自主的な成長こそ実は教員が学生を教えるにあたって最も重要な心構えといえます。
数々の沈黙
この映画では随所に沈黙が効果的に使われており、台詞回しだけが映画の醍醐味ではないことを教えてくれます。
絶妙な間が台詞以上に饒舌にそのシーンを語っているのです。
チカが失敗したときの沈黙
練習中チカはソロパート部分を何度も失敗します。その後皆が黙りこくり映像は止まり音も止まります。
部員たちの心の声が聞こえてきそうなシーンです。敢えて沈黙させることによって効果を高めているのです。
チカにとっては口で非難されるよりもつらかったかも知れません。彼女はその後一人で必死に個人練習に努めます。
出番前の沈黙
演奏会出番前の部員たちと草壁の沈黙は息が詰まりそうになるシーンです。
見ている方も自分の出番が近づいているような錯覚に陥ってしまいます。
草壁も部員たちも「頑張ろう」などと声を掛け合うことに意味がないことを理解していました。
ここでも沈黙しながら皆の目を見ることで、草壁の饒舌な心の声が伝わってくるのです。
芹沢直子の意図
この映画では芹沢直子は重要な位置づけになっています。
耳が聞こえにくくなっていることや音楽一家に育ったことなどは原作やアニメに近い設定です。
結局彼女は吹奏楽部には入りませんでしたが、重要なポイントで陰ながらチカや部員たちをサポートします。