そこには、祖母に対するヨウの愛が詰まっていると考えられます。
現実の祖母は、自身の意思に関わらず人工知能によって心身の健康状態を事務的に管理されていました。
しかしヨウが見た夢の中の祖母は、若い少女の姿でヨウとのひとときを目一杯謳歌しています。
この2つの祖母の姿が実は、祖母の本心と現実の姿を照らし合わせていると考えられるのです。
夢と現実の祖母の姿を見たヨウは、人工知能や医療器具に縛られた祖母の尊厳を守るため、殺害したといえるでしょう。
たとえ現実で会えなくなっても、祖母の姿や記憶はずっと心に残って離れない。
ボートに乗ったヨウがつぶやいた「これで良かったんだ」という言葉も、このような考え方が根底にあるといえます。
作品の最後に登場した線香花火も、本来人間がおくるべき人生の在り方を表しているのでしょう。
アマの意思が表すものとは?
政府による教育管理が進んだ未来を描いた作品「SIN」では、25歳の誕生日を迎える青年アマが登場しました。
アマは5歳の頃に教育機関「エルサ」から、20年後に母親を殺害する確立が高いという宣告されています。
VRを通してエルサが算出した未来の姿を見たアマ。
教育機関に入らないことを選択したことから、本来であればシミュレーションの記憶は完全に消去されています。
しかしアマは、過去に見たシミュレーションの記憶を思い出し、自ら予測とは違う行動を起こしました。
このようなアマの意思や行動は、未来が自分の行動次第でいくらでも変えられることを表しているのです。
VRが作り出した未来はあくまで可能性でしかなく、未来そのものが不確定なものであることを示しているのでしょう。
クローンや人工知能が与えた影響とは?
科学技術の発達とともに、度々問題となるのがクローンや人工知能が与える人々への影響です。
映画「LAPSE」では、クローンや人工知能の発達による暗い一面が色濃く描かれています。
ここでは、映画「LAPSE」が描くクローンや人工知能がもたらす影響について考察していきましょう。
思考の停止
作中に登場する未来の人々の生活スタイルは、あらゆる部分をクローンや人工知能に頼っている状態です。
日常生活の道具だけでなく、治療の方針決めや法律などの国の根幹となる部分もAIが算出したものに基づいています。
クローンの場合も同様であり、今の自分では実現が難しい理想の姿や人生を投影しています。
この状態が続けば、いつか人々は努力をすることを忘れ、自身の意思や感情を持たなくなってしまうことでしょう。
つまり本来人々の生活を向上させる人工知能が、人々から思考力を奪いかねないことを表していると考えられるのです。
責任の転嫁
物事の数値化や明確化など、人工知能の進化がもたらす恩恵は数多く存在するでしょう。
しかし作中では、人工知能の数値や予測を信じ「AIが言うなら仕方がない」と納得しようとする人物も多く存在します。