多くの母親は子を心から愛していると信じ切っていることでしょう。
また多くの子も母親に無条件に愛されたいとせつに願っているのです。
しかしながら、なぜかこれらの思いが無条件に重なることは少ないのです。どうしてもお互いにわかり合えずすれ違ってしまうことがあります。
ジョンとルパートの場合を見てみましょう。
ジョンの場合
ジョンは一連の騒ぎが一段落し、彼がトップスターの座から転げ落ちた後にやっと母親に心を開こうとします。
ジョンは本当はルパートにではなく母親たちと穏やかな心の交流の場を持ちたかったのではないでしょうか。
でも様々なバリアがそれを困難にしました。
母親はジョンが同性愛だったことを薄々気づいていたのではないでしょうか。ジョンもそれを母親に打ち明けたかったのかもしれません。
二人の溝は未だ完全には埋まっていなかったのです。
ルパートの場合
世界中の如何なる子も母親にとっていい子でありたいと考えています。
ルパートも例外ではありませんでした。彼は母親の期待に応え、母親から褒めて貰いたかったのです。
一方で彼には既に自我が目覚めていました。その自我は自分自身が果たせなかった夢を自分に押しつけてくる母親に反抗することを要求します。
二人の溝はこうして深まっていったのです。
彼は母親には知らせない形で母への愛情を形にしていました。ジョンへの手紙にもそのことが綴られていたはずです。
ジョンは自殺したのか
この作品には一つの謎が残されています。果たしてジョンの死因は何だったかということです。
スキャンダルにまみれ狙っていたヒーロー役への登板もなくなり、失意のために自殺したというのが一つの見方といえます。
しかしながらルパートへの最後の手紙や母親との和解などを見ると、ジョンには本来の自分を取り戻す兆しが見られていました。
厨房のデスクにおける老人との会話にも明るい兆候が見えていたではありませんか。
このように考えると自殺の線は考えにくいのかもしれません。
彼は「無性に眠い」と訴えていました。睡眠導入剤などの過剰摂取事故だった可能性があるのです。
ジョンの生をも生きるルパート
ジョンはルパートに本来そう在りたかった自分の分身を見ていた可能性があります。
ルパートとの手紙のやりとりはある意味自分自身との対話だったのかもしれません。
一方のルパートは自分の感受性を受け止めてくれる唯一の存在としてジョンを見ていました。
二人は文通によってそれぞれ精神のバランスを取っていたのです。