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映画【リリーのすべて】は世界初の性適合手術を受けた画家でもあるアイナー・ヴェイナーの実話に基づいた物語です。
自己の肉体と実際の性認識のギャップに苦しみもがくアイナーとその現実を受け止めきれない妻のゲルダの姿が描かれた傑作といえます。
トランスジェンダーと、その現実に直面する配偶者の揺れる心と葛藤は想像を絶するものがあるのではないでしょうか。
この作品は数々の映画賞にノミネートされ、ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルは第88会アカデミー賞の助演女優賞を獲得しています。
風に舞ったスカーフ
リリーが息を引き取った後ゲルダとハンスは故郷のヴァイレを訪れます。
そこでゲルダが巻いていたスカーフが風に舞うシーンには特別な意味が込められているのです。
ゲルダとハンスはなぜヴァイレを訪れたのでしょうか。
また、ゲルダが風に舞うスカーフを追いかけようとするハンスをとめた理由は何だったのでしょうか。
風に舞うスカーフの意味を考察してみましょう。
スカーフの意味
ゲルダがしていたスカーフは亡くなったリリーと考えるのが自然です。
このスカーフはリリーがゲルダのために選んだもので、紆余曲折を経て最終的にゲルダのもとに届きました。
ゲルダはこれをリリーの形見として捉えていたのではないでしょうか。
一方で、このスカーフはゲルダ自身であるという考え方も出来ます。
風に舞うスカーフは自由になろうとするゲルダを示しているのかも知れません。
ゲルダたちがヴァイレを訪れたわけ
ヴァイレはアイナーであったリリーの故郷で、彼が絵のモチーフとして描き続けた地でもありました。
リリーは最後の息の中で、自分が赤ん坊のリリーとして母に抱かれる夢を見たとゲルダに話します。
ゲルダが巻くスカーフはリリーの象徴であり、ゲルダはそれをリリーとして思い出の地に連れてきてあげたかったのではないでしょうか。
心身ともリリーとなったアイナー、ゲルダ、ハンスにとってヴァイレは始まりの地だったのです。
風に舞うスカーフを追いかけなかったゲルダ
風に舞うスカーフを追いかけようとするハンスに対して、ゲルダは「飛ばせてあげて」と言ってアイナーを引きとめます。
ゲルダが飛ばせてあげたかったのはリリーでした。
生涯をアイナーとリリーの間で揺れ動き、苦しみ抜いた彼(彼女)を今こそ自由にしてあげたかったのです。
そして、自由にさせたかったのはゲルダ自身でもありました。
彼女もリリーと一緒に苦しんだのです。そのような自分のこれからの未来も自由にさせてやりたいという思いがあったのではないでしょうか。
リリーとなったアイナー
トランスジェンダーの心理を理解することは一般には難しいものです。
自分が認識する自分自身の性とそれとは異なっている自分の肉体との折り合いをつけることは至難の業といえます。
アイナー(リリー)の苦しみは察して余りあります。彼(彼女)の心の中に少し分け入ってみましょう。
リリーが目覚めるまで
アイナーは幼少期から自分の性が女ではないかと薄々感じていました。
幼い頃ハンスとキスした経験がそれを物語っています。
アイナーは心の中で次第に大きくなっていくリリーを持て余しつつも、何とか押さえ込むことに成功していました。