富栄は太宰の子どもを欲しがっていましたが、太宰はそんなことを望んでいません。

すでに太宰は肉体的にも精神的にも限界に達していました。

富栄は太宰にとって子どもを持とうとする対象にはなりえなかったのです。

太宰を本気で愛していた富栄にとって、それは受け入れられない事実でした。

他の女性には許されたことなのに、なぜ自分には許されなかったのか。

それこそが富栄の絶望です。

踏み込んではならない場所に踏み込む

晩年 (新潮文庫)

富栄はとうとう美知子がいない間に太宰の家にやってきて、家事をするという行動に出ます。

これはどんな浮気相手も行ったことのないことです。

憑き物が落ちたかのように振舞う富栄ですが、内心は絶望からこのような行動に出たことは明らでした。

ここまで追いつめられた富栄を見て、太宰は今度こそ富栄と死ぬことを決意したのです。

それは小説を書くために、富栄をここまで追い込んでしまった太宰の罪滅ぼしでありケジメであったのかもしれません。

本作を観た後は太宰治の小説を

本作を観て太宰の人生を知った後は彼の小説を読むことをお勧めします。

斜陽

斜陽

太田静子が小説のアイデアを提供した作品が「斜陽」です。

戦後の時代の中で緩やかに没落していく華族を背景にヒロインのかず子は時代に合わせて生きようとします。

そして弟の友人である小説家の上原と恋に落ちるのですが、彼は既婚者でした。

この既婚の小説家というのが誰のことを表しているのかは火を見るよりも明らかです。

映画にもあったように、本作は静子の日記を参考にした作品でした。

最後に強く生きようとするかず子の姿に、太宰を愛していた一方でしたたかさも持っていた静子の強さを連想します。

人間失格

人間失格

人間失格」は「走れメロス」と同じくらい太宰治の代名詞ともいえる小説です。

映画は「人間失格」の誕生秘話の側面も持っていました。

人生の全てをなりゆきに任せ、アルコールと薬に身を堕としていく破滅的な男の姿が描かれています。

広く知られた作品である一方、映画を観た後では少し違うイメージを感じることができます。

太宰は全ての行動を、小説を書くという一つの信念に結びつける形で生きていました。

それは決して成り行きに任せているとはいえない行動でしょう。

本作を鑑賞すると、果たして太宰は本当に人間失格だったのかという疑問が生じます。

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