インド映画が世界で支持されているのは、ナヴァ・ラサを基本とした普遍的な娯楽要素が含まれているからだといわれています。
9つの感情は作品内でどう活きてくるのか?
これら9つのラサは、作品の中で具体的にどのように活きてくるのでしょうか?映画の基本的な筋書きに沿って考えてみましょう。
ユニークで魅力的なヒーロー。彼は美しいヒロインと恋に落ちます(1.恋)。
しかし、彼らが進むべき道を阻む敵が現れ(7.敵役の存在)、その存在と対立します(4.忿怒)。
その後、物語はスリル(6.恐怖)とサスペンス(8.驚異)、時にコメディ要素(2.滑稽)を織り交ぜながら展開。
たびたび目の前に現れる敵の執拗な攻撃にヒーローが敗れ、一時は失意のどん底に落ちます(3.悲)。
やがて再起したヒーローは、勇猛果敢に敵と立ち向かい(5.勇猛)、最終的に勝利を得てハッピーエンド(9.平安)を迎えます。
これぞ娯楽映画という王道のストーリー展開ではないでしょうか?
この基本の骨組みのどの部分にどんな肉付けをしていくのか、どのような魅力的なキャラクターを作り上げるか。
そして、物語の全体でどうやって緩急を付けていくのかが各作品のカラーとなるわけです。
前述のとおり、インド映画にはミュージカル風シーンが登場するため、そのダンスと音楽の力で観る者の心は浮き立ちます。
そういった娯楽要素の中に社会問題を巧みに取り入れた本作。
パズルのピースが合わさったとき、あらゆる世代の人の心に響く感動作が誕生するということが、よくわかります。
【きっと、うまくいく】におけるナヴァ・ラサ
恋愛や出世をテーマにしたものが多いインド映画の中で、本作は抱腹絶倒の学園コメディです。
コメディの顔を持ちながらも、教育・貧困・階級といった現代のインドが直面する社会問題がしっかりと描かれています。
ストーリーに巧みに組み込まれたナヴァ・ラサ
「All is well.”うまーくいーく”」を座右の銘とする、型破りな自由人のランチョー。
彼が、学校の理不尽な教育方針と支配的な学長・ヴィールーに反抗する日々。
そしてその10年後を描いたサブストーリーが同時進行していきます。
学生時代のランチョーの親友ファルハーンとラージューが、大学卒業以来消息を絶ったランチョーを捜す様子が描かれます。
主人公ランチョーは入学初日から大暴れ。上級生による”恒例の新入生歓迎の儀式”をあっさり無視し早くも目を付けられます。
しかし、奇想天外なアイデアで見事反撃に成功(2.滑稽)します。
熾烈な受験戦争を勝ち抜いてきたICEの学生たちは、試験で良い成績をとり順位を上げることに必死。
そんな彼らを尻目に、工学大好きでヤワラカ頭のランチョーは常に学年首席を誇ります。
彼は「点の取り方」ばかりを教える大学の教育方針には懐疑的で、学長のヴィールー(7.嫌悪)とたびたび対立を起こします。
ある日、ランチョー同様に根っからの工学好きと思われた上級生のジョイ・ロボが、将来を悲観して首吊り自殺。
渾身の卒業制作をヴィールーに認めてもらえなかったことで、絶望してしまったのです。
ジョイ・ロボに希望を持ってもらおうと奮闘していたランチョーは悲しみに暮れ(3.悲)ました。
やがてその悲しみはヴィールーに対する怒り(4.忿怒)に変わります。