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【きっと、うまくいく】コメディながらも私たちの感情を揺さぶる理由を徹底考察!インド映画に欠かせない9つの感情とは!?

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B005QSMLYY/cinema-notes-22

年間制作本数・映画館観客総数ともに世界一を誇る映画大国・インド。

近年のこの国の作品の中で、あらゆる国と世代の人の心に響く感動作をひとつ挙げるなら、この【きっと、うまくいく】でしょう。

スティーヴン・スピルバーグやブラッド・ピッドも絶賛した本作。

痛快学園コメディの顔を持ちつつ、インド国内で長年の社会問題となっている学歴競争というテーマを根底に流した作品です。

加熱するインドの教育問題に一石を投じながら、“今を生きることの大切さ”を観る者に問いかける本作。

この作品がなぜ観る者の感情をこれほどまでに揺さぶるのか?

ここでは、インド芸術における9つの感情を表す言葉「ナヴァ・ラサ」を軸に徹底解説していきます。

インド映画の面白さ

3 Idiots [Import allemand]インド映画の特徴といえばミュージカル風のシーン。

ストーリーの途中で色鮮やかな衣装を身にまとった主人公たちがエキストラとともに突然踊りだします

突然繰り広げられるミュージカル風シーン

何故、突然踊りだすのでしょうか?

かつてインドではラブシーンがご法度であったため、男女の気持ちが昂る様子を踊りで表現していたことが背景の1つにあります。

以前ほど規制が厳しくなくなった現在でも、1作品につき3~6曲の”ミュージカル風シーン”が含まれることが一般的です。

本作も例外ではなく、主人公のランチョーは親友や想い人と、心躍るミュージカル風シーンを披露します。

全編通して2曲という曲数は、インド映画にしては少ない方といえるでしょう。

「ナヴァ・ラサ(=9つの感情)」という考え

ミュージカル風シーンと並んで、インド映画にとって重要なのが、「ナヴァ・ラサ(=9つの感情)」の概念です。

ほとんどのインド映画のストーリーには、ナヴァ・ラサが組み込まれているといわれています。

一般に、人間の心には8つの感情点が認められており、外界からさまざまな刺激を受けることで感情が発せられます。

映画などの芸術作品を鑑賞する際、この一般的な感情と似て非なるものが発せられると考えられています。これが「ラサ」です。

8つのラサが混ざり合って脳に達することで、9つめのラサ=芸術的エクスタシーを味わえる。

これが、「ナヴァ・ラサ」の考えです。

 インド芸術における「ナヴァ・ラサ」

3 Idiots [Import allemand]では、ナヴァ・ラサとはどのような概念なのでしょうか?具体例を挙げながら解説していきます。

「9つの感情(ナヴァ・ラサ)」とは何か

以下に、9つの感情(=ナヴァ・ラサ)を列挙します。1~8が8つの感情点、9が芸術的エクスタシーです。

わかりやすいように、9種のラサに該当する現代映画のジャンルや要素を記載しました。

  1. シュリンガーラ=恋 → ラブロマンス
  2. ハースヤ=滑稽 → コメディ
  3. カルナ=悲 → お涙頂戴
  4. ラウドラ=忿怒 → 復讐
  5. ヴィーラ=勇猛 → アクション
  6. バヤーナカ=恐怖 → スリル
  7. ビーバッサ=嫌悪 → 敵役の存在
  8. アドブタ=驚異 → サスペンス
  9. シャーンタ=平安 → ハッピーエンド

これらが初めて言及されたのは、インド古典演劇百科全書『ナーティヤ・シャーストラ(2~5世紀)/バラタ著』の6章です。

実は『ナーティヤ・シャーストラ』の時点では、ラサは「アドブタ」までの8種類しか記されていませんでした。

後の11世紀頃、この百科全書の注釈書『アビナヴァ・バーラティー』で、第9のラサとして「シャーンタ=平安」が記載されます

これ以降、ラサは9種と考えられるようになったようです。

ラサが一般的な感情と異なるのは、この9つ目のシャーンタに昇華される点です。

例えば、現実世界の出来事が起こった際に発せられるカルナ(3.悲しさ)が、自然と昇華されていくことはありません。

けれども、映画の悲しいシーンを観て発せられるカルナは、物語を追うごとに発せられるその他のラサと混じり合います。

そして作品を観終わる頃にはシャーンタ(芸術的エクスタシー)に昇華するのです。

インド映画が世界で支持されているのは、ナヴァ・ラサを基本とした普遍的な娯楽要素が含まれているからだといわれています。

9つの感情は作品内でどう活きてくるのか?

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これら9つのラサは、作品の中で具体的にどのように活きてくるのでしょうか?映画の基本的な筋書きに沿って考えてみましょう。

ユニークで魅力的なヒーロー。彼は美しいヒロインと恋に落ちます(1.恋)。

しかし、彼らが進むべき道を阻む敵が現れ(7.敵役の存在)、その存在と対立します(4.忿怒)。

その後、物語はスリル(6.恐怖)とサスペンス(8.驚異)、時にコメディ要素(2.滑稽)を織り交ぜながら展開。

たびたび目の前に現れる敵の執拗な攻撃にヒーローが敗れ、一時は失意のどん底に落ちます(3.悲)。

やがて再起したヒーローは、勇猛果敢に敵と立ち向かい(5.勇猛)、最終的に勝利を得てハッピーエンド(9.平安)を迎えます。

これぞ娯楽映画という王道のストーリー展開ではないでしょうか?

この基本の骨組みのどの部分にどんな肉付けをしていくのか、どのような魅力的なキャラクターを作り上げるか。

そして、物語の全体でどうやって緩急を付けていくのかが各作品のカラーとなるわけです。

前述のとおり、インド映画にはミュージカル風シーンが登場するため、そのダンスと音楽の力で観る者の心は浮き立ちます。

そういった娯楽要素の中に社会問題を巧みに取り入れた本作。

パズルのピースが合わさったとき、あらゆる世代の人の心に響く感動作が誕生するということが、よくわかります。

【きっと、うまくいく】におけるナヴァ・ラサ

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恋愛や出世をテーマにしたものが多いインド映画の中で、本作は抱腹絶倒の学園コメディです。

コメディの顔を持ちながらも、教育・貧困・階級といった現代のインドが直面する社会問題がしっかりと描かれています。

ストーリーに巧みに組み込まれたナヴァ・ラサ

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「All is well.”うまーくいーく”」を座右の銘とする、型破りな自由人のランチョー。

彼が、学校の理不尽な教育方針と支配的な学長・ヴィールーに反抗する日々。

そしてその10年後を描いたサブストーリーが同時進行していきます。

学生時代のランチョーの親友ファルハーンとラージューが、大学卒業以来消息を絶ったランチョーを捜す様子が描かれます。

主人公ランチョーは入学初日から大暴れ。上級生による”恒例の新入生歓迎の儀式”をあっさり無視し早くも目を付けられます。

しかし、奇想天外なアイデアで見事反撃に成功(2.滑稽)します。

熾烈な受験戦争を勝ち抜いてきたICEの学生たちは、試験で良い成績をとり順位を上げることに必死。

そんな彼らを尻目に、工学大好きでヤワラカ頭のランチョーは常に学年首席を誇ります。

彼は「点の取り方」ばかりを教える大学の教育方針には懐疑的で、学長のヴィールー(7.嫌悪)とたびたび対立を起こします。

ある日、ランチョー同様に根っからの工学好きと思われた上級生のジョイ・ロボが、将来を悲観して首吊り自殺。

渾身の卒業制作をヴィールーに認めてもらえなかったことで、絶望してしまったのです。

ジョイ・ロボに希望を持ってもらおうと奮闘していたランチョーは悲しみに暮れ(3.悲)ました。

やがてその悲しみはヴィールーに対する怒り(4.忿怒)に変わります。

その後ひょんなことからランチョーが恋に落ちた(1.恋)相手・ピアは、なんと宿敵ヴィールーの娘!

親友たちに背中を押され、ピアに愛の告白をしにいく一幕は、ドタバタのラブコメディ(2.滑稽)としても見ごたえがありました。

ピアの姉・モナの出産を助けるシーンは、かなりハラハラドキドキ(6.恐怖)させられます。

一方のサブストーリーでは、ファルハーンとラージューがやっと再会できた!と思ったランチョーが全くの別人という驚愕の展開に。

そこから「俺たちがランチョーだと思っていた相手は誰だったのか?」という謎解き(8.驚異)が始まります。

3時間弱の物語の真ん中あたりで、ランチョーが実は替え玉入学した学生だったと判明。

銃口を向ける”本物のランチョー”の攻撃をかわした(5.勇猛)ファルハーンとラージュー。

二人がランチョーの居場所を突き止めた後、結婚式場から花嫁・ピアを連れ出すシーンも、ハラハラドキドキの連続です。

ランチョーの影響でかなり大胆な行動を起こしまくる二人の様子は、見ていて微笑ましくなります。

そしてラスト。美しい海を背景に皆がついにランチョーと再会するシーンは、最高のハッピーエンド(9.平安)です。

嫌味なチャトルがランチョーを小馬鹿にしますが、実はランチョーは大発明家のフンスク・ワングルだった!

これがわかったときは、その痛快などんでん返しにスカっとした気分になります。

メインとサブのストーリーで、8つの感情が見事に網羅されており、最後に訪れるのは最大にして最高なハッピーエンド

この感情の振れ幅が感動を呼ぶのでしょう。

主演・アーミル・カーンについて

3 Idiots (Cd) (Indian Music / Bollywood Music / Hindi Film Music) [Import, Soundtrack]本作の主演は、インドの国民的俳優と称されるアーミル・カーン

みずみずしい大学生のランチョーを演じた彼は、撮影当時なんと44歳!見た目の若さに驚かされます。

撮影当時44歳にして大学生のランチョー役を熱演!

役柄に合わせて体づくりをする彼は、若者らしい体に仕上げるために筋肉をそぎ落とし、肌も綺麗に見せる工夫をしたそうです。

自分がほれ込んだ脚本でなければオファーを受けないことで知られる彼ですから、その気合の入りようにも納得です。

個性的なキャストの魅力

3 Idiots [Import allemand]本作の中で、観る者に強烈な印象を残した“強大な敵役”ヴィールー学長についても触れたいと思います。

ヒロインはもちろん、悪役にも惹かれるキャスティング

この映画を名画にした立役者は、ヒーロー&ヒロインの魅力はもちろんのこと、敵であるヴィールー学長の存在も大きいと思います。

実際に、ピア役のカリーナ・カプールとヴィールー役のボーマン・イラーニーは、複数の映画賞で受賞を果たしています。

受賞歴に証明される悪役の重要性

ちなみに、彼が受賞したのは「2010 国際インド映画アカデミー賞」と「2010 フィルムフェア賞」の”悪役賞”

他の国ではあまり見かけない賞ですが、敵役の存在はナヴァ・ラサの柱の一つであることを考えると、とても腑に落ちます。

チャトル役オーミー・ヴァイディアの「2010 スター・スクリーン・アワード」コメディアン賞受賞も納得です。

まとめ

 3 Idiots [DVD] [Import]インド映画の基礎「ナヴァ・ラサ」を踏襲しつつ、世界各国の人の心に響く要素を詰め込んだ意欲作が【きっと、うまくいく】です。

メインストーリーとサブストーリーの中で、8つの感情が巧みに組み合わさり、見事に融合。

それがラストシーンで見事に昇華し、芸術的エクスタシーを得られる作品です。

物語の根底に流れていた学歴競争や、苦学生のラージューやミリ坊主の背景に見られる貧富の差・カースト制度。

このような鬱屈した空気を吹き飛ばす意味では、カタルシスともいえそうです。

“今を生きることは何か”という万国普遍のテーマを描いたことで、観る者の心に問いかける大作となり得たのではないでしょうか。