出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B07HKGGJ6W/?tag=cinema-notes-22

トレーラーの脱輪事故を巡る運送会社の闘いを描いた『空飛ぶタイヤ』

大企業の闇に挑む中小企業の逆転劇であるとともに、企業の社会的責任のありかたを問う作品です。

第42回日本アカデミー賞では、監督賞や脚本賞をはじめ9部門で優秀賞を受賞しました。

池井戸潤の小説が原作で、物語の流れはほぼ原作通りといえます。

しかし、どこか原作とは異なる印象を受けた方も多いのではないでしょうか。

今回は、本作と原作小説の間にある差異や、それがもたらした影響について徹底的に解説します!

原作小説の特徴は?

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)

小説『空飛ぶタイヤ』は、2005〜2006年にかけて「月間J-novel」に連載されました。

その後、単行本や文庫版が発売され、累計180万部を超えるベストセラーとなっています。

池井戸潤作品初の映画化

池井戸潤の小説作品は『半沢直樹』『花咲舞が黙ってない』『下町ロケット』などがドラマ作品として映像化されています。

一方『空飛ぶタイヤ』は初の映画化作品となりました。

池井戸潤の名作がスクリーンの中でどのように輝くのか、注目していた方が多いのではないでしょうか。

「人」を描きたいという原作者の想い

金融探偵 (徳間文庫)
池井戸潤は大手銀行に勤めていた経験があったため、銀行をテーマにした作品を多く手掛けていました。

そんな中、作品の舞台を銀行の外、もっと広い社会へと拡げていく中で執筆したのが『空飛ぶタイヤ』です。

僕はこの作品から“人を描く”という根幹を学んだ。

引用:https://www.excite.co.jp/news/article/Crankin_5678010/

映画化に際してのインタビューで、池井戸潤はこう答えています。

つまり、登場人物それぞれが自身の立場や抱えている葛藤を解決するためにとった行動や言動が、事細かに描かれている作品なのです。

もちろんそれは小説のみならず、映画となった本作でも克明に描かれています。

描かれる人物の数だけ重みが増していくような印象を与えました。

原作と異なる印象を抱く理由1:語り部の視点

視点を変える -仕事で成功する発想法
同じ物事でも、誰の視点から見るかによって印象は大きく変わります。

誰かが感じた衝撃を第三者が語ったとしたら、きっと真実味を帯びないでしょう。

視点は、物語にとって非常に重要な役割を担っています。

本作と原作小説の相違点として「語り手の視点の違い」が挙げられます。これが作品にどのような影響を与えているのでしょうか。

主要人物の視点に絞った映画版と、多面的に語られる小説版

原作小説の登場人物は約70人。一人ずつ事細かに、関係性や心情が矛盾しないように描かれています。

一般的な小説では、数多くの人物が登場したとしても心情まではっきり描かれるのは主人公とその周りだけではないでしょうか。

実際は主人公の行動に何らかの影響を及ぼしている人物が沢山いるはずなのです。

池井戸潤はここにスポットを当て、『空飛ぶタイヤ』で実例を示したといえます。

一方、映画では主要人物の赤松、沢田、井崎の3人、特に赤松と沢田の視点を中心に物語が展開していきました。

つまり、小説では主要人物の行動を裏で支える人々の心情まで描かれるけれど、映画では描かれない

これは作品にとって良いことなのでしょうか。

描けないからこそ力量が試される

原作小説は上下巻に分かれており、合計ページ数は約820ページにものぼります。

映画化する場合はこの量を120分のフィルムに収めなくてはなりません。

登場人物として深掘りする対象を数人に絞ることは避けられませんでいた。

しかし、映画を観た後で「行動背景が分からない」という感想を持った方はきっと少ないはずです。

原作で描かれている素晴らしい人物描写の中から、どこを削ってどこを膨らませるのか。

池井戸潤が小説で訴えたかったことは絶対に削らず、最も納得性が高いストーリーにするにはどうしたら良いのか。

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