「隣の芝は青い」という言葉通り、まったく知らない女性がロベールにとって魅力的に映ることもしばしばです。
キャンディスとの距離感は?
キャンディスとはスリル満点の浮気先で知り合い、誰にも言えない秘密の関係です。
お互いのこともまだよく知りません。
しかしカトリーヌにキャンディスのことを話し、キャンディスとの共同生活を始めると、彼女との仲は妻公認のものになったばかりか、一気に距離が縮まってしまいます。
こうしてキャンディスはロベールにとっての適切な距離感をカトリーヌ同様踏み越えてしまう存在になってしまったのです。
なぜリポーターでカメラマン?
ロベールの職業はリポーターでありカメラマンです。
ここに、ロベールが愛する人との共同生活を単調に送れない理由があります。
スリルを求めて
冒頭では浮気性として描かれたロベールは、ケニアにベトナムにと世界中を飛び回ることを仕事としています。
ロベールはどこかに定住することができない、安定を好まない性分なのです。
だからこそ、カロリーヌと生活し、旅行しているときにはキャンディスを求め、キャンディスと生活し旅しているときには、大自然でのスリルやカロリーヌを求めました。
ないものねだりというわけではなく、ただフラフラしていたい性分なのです。
そこに相手への気遣いはありません。自分の人生が第一です。
これはのちにカトリーヌの笑顔を引き出す要因となります。
モノクロ映像が示すものは?
カラー映画の中にあえてモノクロのシーンを入れるという手法は、史実に基づくパロディや人物史を描くときに、その信用度を上げるためによく用いられるものです。
しかし今回は、この作品のロケ地となった場所での悲惨な光景と、その場所での出来事を伝えることを生業とするロベールの、危険に身を置く生活を強く印象付けるために挿入されたシーンでしょう。
発表年(1968)に起こったこと
パリのめぐり逢いの発表年である1968年には、主なロケ地である4地方でこれだけのことが起こっています。
アメリカにて
キャンディスが傷心で帰ったアメリカでは、なんと暗殺に爆撃命令といった不穏なことばかりが続いています。
- 原子力空母エンタープライズの寄港阻止闘争が始まる。
- 軍機B52がグリーンランド沖に墜落、水爆4個が行方不明になる。
- ロバート・F・ケネディ氏が暗殺される。
- リンドン・ジョンソン大統領がベトナム戦争での北爆一部停止を発表する。同時に、ベトナム戦争対策に集中するため、同年の大統領選挙に立候補しない意思を表明する。
- マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺される。
アフリカにて
ロベールとキャンディスが撮影に赴いたアフリカでも、民族闘争が続いていました。
そして何より、フランスによる水爆の実験地にされていました。
ベトナムにて
ロベールが取材に赴き拘束されるベトナムは、まさにベトナム戦争中です。
南ベトナムの共産派ゲリラ軍が蜂起し、テト攻勢が開始されます。
フランスにて
日本題で「パリの」と付けられておきながら意外に映画内でのシーンは少ないフランスですが、ここでも1000万人が参加したと言われるゼネラル・ストライキを頂点とした学生の街頭占拠、そして労働者のストライキが1か月に渡って続発した「五月革命」が勃発します。
ベトナム戦争やインドシナ独立戦争、アフリカの動乱やナチ政権の様子がモノクロで映されたのは、こうした悲惨な時代背景があったからでしょう。
カトリーヌがロベールを許した理由は?
最後にカトリーヌは、浮気を繰り返し一旦は愛人との生活まで選んだロベールに笑顔で接します。
その笑顔の裏にはどんな意味があるのでしょうか。
笑顔に隠された女心
ロベールの拘束をニュースで聞き、カトリーヌは本気でロベールの身を案じました。
裏切りに傷つけられたとはいえ、本気で愛し結婚までした相手です。
心配するのは当然です。
そして無事に拘束を解かれ真っ先にカトリーヌの元へ向かったロベールですが、カトリーヌは「妻ではない」笑顔で迎えます。
ロベールはキャンディスを選んだのですから、これも当然です。