言語学の教授ヒギンズとピカリング大佐は、イライザをめぐって賭けをしました。
イライザを立派なレディにすることができるか? ヒギンズ教授は「小さな実験」をはじめます。
ちなみに言語学の教授ヒギンズとピカリング大佐は上流階級の人間です。
ヒギンズはイライザのコックニー訛りを上流階級が話すクイーンズ・イングリッシュに矯正します。
しとやかな所作を叩き込み、きれいな服を着せ、社交界に招きます。
イライザは下町生まれだと思えない完璧なレディとなりました。
『キングスマン』におけるイライザ
『マイ・フェア・レディ』のあらすじをみると、エグジーの姿に重なりますね。
労働者階級に生まれましたが、訓練によって上流階級へと仲間入りするところがイライザとおなじです。
しかし、イライザは他にもいたのです。それがまさしくキングスマンのリーダー、アーサーでした。
品行方正でいかにも紳士然としたアーサーが、実は下町出身だったと示すシーンがあります。
それはアーサーがエグジーを殺そうとしたシーンです。アーサーはエグジーの機転で自分が毒を飲んでしまいます。
今際の際に、アーサーは口汚くエグジーを罵りました。
You dirty little fucking…prick.
引用:キングスマン/配給:20世紀フォックス・KADOKAWA
その時のアーサーの英語の発音はコックニーでした。下町訛りの英語です。
また、字幕では「この薄汚い腐りきった屑め」と訳してありましたが、実際はもう少し下品で強烈なニュアンスがあります。
「このド腐れ短小野郎め」といったところでしょうか。
アーサーのコンプレックス
クイーンズ・イングリッシュを話し、完璧な紳士として振る舞っていたアーサー。
そのアーサーはハリーに候補者選びを催促するシーンで「君の”実験”は失敗したんだ」と言っています。
ここでいう「実験」とは、『マイ・フェア・レディ』でヒギンズ教授がイライザがレディになれるか試した「実験」のことです。
ハリーは身分の低いエグジーの父をキングスマンの候補者として育てていました。
それを『マイ・フェア・レディ』の「実験」になぞらえていたのですね。
まさに「実験」の成功例であるアーサーは、しかし階級に対するコンプレックスを払拭できなかったのでしょう。
その結果が、過度な選民思想だったというわけです。
英語の発音に注目
『キングスマン』では言葉づかいで巧みにその登場人物の出自をほのめかしています。
エグジーは下町の不良青年らしく、くだけた発音でときどきFワードを使っています。
エグジーの友人や不良たちは、かならずといっていいほどFワードを使います。
ハリーは紳士らしく、完璧な発音と文法で話します。
マーリンは少しだけ訛りがありますね。ウェールズかスコットランドでしょうか。いずれにせよ由緒ある家柄のインテリエリートであることは間違いありません。
ヴァレンタインはアメリカ英語で、黒人英語の訛りがあります。
ガゼルはお手本のようにきれいなアメリカ英語です。
登場人物の言葉づかいに注目してみると、その人の性格や育ちがわかって面白いですね。
紳士の条件
ハリーはエグジーに言いました。
「生まれの貧しさでは人生は決まらない」「人は生まれた家柄で紳士になるんじゃない」「学んで紳士になる」「マナーが 作るんだ 人間を」。
エグジーは、自分はしょせん庶民でそこから抜け出せないんだと思っていました。
父をなくし自堕落になり、そのまま転がり落ちていくのがエグジーの人生だったでしょう。
しかしハリーがあらわれ、エグジーをどうしようもない世界からすくい上げてくれました。
ハリーは強く正しく、情をもってエグジーに接します。エグジーはきっと、ハリーに理想の父親を重ねていたのでしょう。
また、紳士としてのハリーに尊敬と憧れをいだき、スパイとしては目標にしていたでしょう。
そして、信頼のおける友人として、ハリーを大切に思っていました。
そんなエグジーにとって特別な人間であるハリーが、ヴァレンタインによって撃たれてしまいます。
何も失うものがないと言ってスパイの道に足を踏み入れたエグジーでした。しかし、大切な存在となったハリーを失ってしまいます。
エグジーは父親を失ったときのように、自暴自棄になったでしょうか?
そうです、エグジーは以前のようにはなりませんでした。エグジーは学んでいたのです。そして、強くなっていたのです。
真の紳士
ハリーがエグジーに与えたのは、キングスマンになるチャンスだけではありませんでした。
キングスマンとして、紳士として、人間として必要なものをハリーはすべてエグジーに教えていたのです。
キングスマンとして「武器」と「技術」を。紳士として「自信」と「信念」を。そして一人の人間として「仲間」を。
もちろん礼儀やマティーニの作り方も。マティーニの作り方の知識は、ヴァレンタインのパーティ会場に潜入するときにさっそく役に立っていましたね。
エグジーはそれらを活用して、キングスマンとしての信念に基づき、世界の人々を救うために仲間と行動を起こしました。