人間に歩み寄ろうとするエイリアンなんて面白味のかけらもありません。
エイリアンの思考や行動に、私たち人間が理解する余地がないからこそ、彼らは不気味なのです。
エイリアンの魅力の本質は、人間にとっての純粋な恐怖、嫌悪そのものであることです。
エイリアンのデザイン
この映画の主人公はリプリーだけではなく、エイリアンも主役です。
エイリアンの造形がここまで魅力的でなければ、この映画は数多のB級映画のひとつに成り下がっていたでしょう。
『エイリアン』がこれほどまでに私たちの心を掴むのは、微に入り細を穿つエイリアンのおぞましい造形あってのことです。
エイリアンのデザインを担当したのはH・R・ギーガー。スイス出身の画家であり、造形作家として映画制作に多数参加しています。
ギーガーが『エイリアン』に関わることになったきっかけはこうです。
映画制作がはじまり、エイリアンのデザインがなかなか決まらずスコット監督は思い悩んでいました。
そこに脚本家であるダン・オバノンが監督にギーガーの画集を見せたことから、ギーガーが映画制作に加わることになりました。
ギーガーのこだわり
ギーガーの作風はダークでグロテスクで、性的なモチーフを多く扱います。
エイリアンの最大の特徴である長い婉曲した楕円形の頭部は、ギーガーがしばしば作品のモチーフとする「男性器」をイメージしています。
この頭部はギーガーのイメージでは半透明で頭の中身が透けてみえるもので、体表面は常に粘液に覆われているというものでした。
しかし撮影に適した素材が見つからなかったことから、光沢のあるシルバーなりました。
ギーガーとしては妥協の産物だったわけですが、宇宙船内部の配線管に紛れ込む描写が活きたので、いまの造形で十分成功だといえます。
エイリアンの頭部
デザインの初期段階ではエイリアンには目がありましたが、のちに消されています。
目があった名残として、眼窩が残されているのですね。『エイリアン2』以降のデザインでは眼窩も消失しています。それというのも、ある理由があります。
エイリアンはいつも粘度の高い液体をしたたらせていますが、あれはお腹を空かせてよだれを垂らしているわけではありません。
実はエイリアンの頭部は全体が目なのです。眼球が露出している状態なので、乾燥しないように涙を常に分泌させているのです。
撮影では、粘液が素材に塗られたアクリル絵の具を溶かしてしまうので、毎回アクリル絵の具を塗りなおしていたそうですよ。
多大な才能と労力を総動員して、あのエイリアンの造形は作り上げられていったのです。
まとめ
エイリアンは偉大な作品であるだけに、シリーズが何作も作られゲームや小説などマルチメディアに展開していきました。
あまりにも普遍的な名作なので、面白おかしくパロディされたりCMや映画などでエイリアンがコミカルなキャラクターとしていじられたりもしています。
しかし、わたしたちは映画を観るたびに緊迫したシーンでは息をのみ、生理的な嫌悪感を感じ、根源的な恐怖を覚えます。
何度観てもエイリアンの恐怖が薄れることはありません。
映画をみて感じた混じりけのない感情は、わたしたちの記憶に凍結され、その映画をみるたびに何度でも蘇るのです。