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1940年代後半から50年代前半にかけて、アメリカに共産主義というレッテル貼りの恐怖「赤狩り(マッカーシズム)」が吹き荒れました。
これに対し当時黎明期にあったテレビジャーナリズムが敢然と立ち上がった様子を描いた映画が「グッドナイト&グッドラック」です。
主人公はCBSのアンカーマン、エドワード(エド)・マローとプロデューサー、フレッド・フレンドリー。
彼らがジョセフ・マッカーシー共和党上院議員を急先鋒とする「赤狩り」に立ち向かったのです。
マローが放送で語る一言一言は、現代のジャーナリズムに警告を発しているようにも捉えられます。
全編モノクロで描かれるドキュメンタリータッチの本作の監督・脚本を担当したのはジョージ・クルーニーです。
本作は自らもフレンドリー役で重要な役をこなすジョージ・クルーニーの政治的立場を良く表しています。
マローを好演したデヴィッド・ストラザーンは本作でヴェネチア国際映画祭で男優賞に輝き、クルーニーは脚本賞を獲得しています。
今の時代に多くを語りかけてくる本作の背景や描かれた世界の重要性を考えていきましょう。
赤狩り(マッカーシズム)とは
疑心暗鬼のアメリカ
第二次世界大戦が終結すると、連合国だったアメリカとソ連の間は元々の体制の違いから、その仲が急速に冷え込みます。
それはやがて「東西冷戦」へと続いていくわけです。
中華人民共和国の成立や朝鮮戦争などで共産主義の驚異と恐怖がアメリカ国内に浸透。
戦前からあった下院非米活動委員会(リチャード・ニクソンらが主導)が中心となり共産党員やシンパに対し、スパイ行為の摘発や抑圧が進行しました。
やがて共産党は実質的に非合法化されていきます。
1952年大統領選に勝ったアイゼンハワーは、反共キャンペーンの主役マッカーシーを上院政府活動委員会常設調査小委員会委員長に任命します。
マッカーシー旋風
これに勢いを得たマッカーシーは連邦政府や軍部のみならず、芸術、学術、マスコミの分野にも告発の手を入れ委員会に「怪しい人物」を召喚していきます。
出どころの不確かな噂、根拠のない証拠で公職を追放したり、または職場を失うように持ち込んだのでした。
共和党で彼の活動をバックアップしたのがリチャード・ニクソンやロナルド・レーガンでした。
アイゼンハワー大統領は民主党への対抗勢力としてマッカーシーに一定の評価は与えていました。
しかし、心の底ではそのやりかたを苦々しく思っていたと言われています。
作品中にも描かれていますが、委員会では証拠となるべき人物の喚問もせず、証拠の開示もしない杜撰さ。
召喚された人が弁護人の発言も許されない状況に委員会のメンバーからも批判の声が上がります。
「伝聞証拠で裁くのは良くない、本委員会は公正な手続きを採るべきだ」と。
それほどマッカーシーのやり方はとんてもないものだったのです。
しかし国を覆う共産活動の見えざる恐怖は密告を生み、マスコミは自らに火の粉が降りかかるのを恐れ口を閉ざすという悪循環に陥っていました。
自由と民主主義の盟主アメリカが我を忘れていた暗黒の時代だったといえるでしょう。
CBS社内でも共産主義に対する思想調査のようなものが行われている様子が本作でも描かれます。
ハリウッドと赤狩り
映画の都も暗い時代へ
赤狩りはハリウッドにも大きな影響を与えました。
俳優や脚本家、監督など映画製作に携わる人たちも委員会から召喚を受けました。
チャールズ・チャップリンが1952年に「容共的」であるとされ国外追放されたことは有名です。
また議会証言を拒否した関係者10人(「ハリウッドテン」と称される)は業界から追放されました。
グレゴリー・ペック、ヘンリー・フォンダ、カーク・ダグラス、バート・ランカスター、ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール。
さらにジュディ・ガーランド、ダニー・ケイ、キャサリン・ヘプバーン、ジーン・ケリー、フランク・シナトラなどが反対運動を行いました。