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アメリカとイランの敵対関係は、ほぼ40年に渡って続けられています。
そもそもこの両国の争いの火種は、1979年から1980年にかけて続けられたイランのアメリカ大使館人質事件にあります。
本作『アルゴ』はその事件を元にしたドキュメンタリー映画です。2013年のアカデミー賞・作品賞の受賞を始め、映画は高く評価されました。
その一方で実話との違いも数多くあり、史実がアメリカ寄りにねじ曲げられているとの批判もあります。
今回はこのことについて深く見てゆきます。史実情報に関しては主にディスカバリーチャンネルの『Argo: Inside Story』を参考にしています。
人質救出作戦はなぜ「アルゴ」になったのか
イランにあるアメリカ大使館がイラン市民によって急襲される中、6名のアメリカ人大使館員はカナダの大使館に逃げ込みました。
そこでアメリカのCIAはさまざまな救出作戦を練ることになります。
他の救出計画が示すCIAの乏しい想像力
最終的にCIAは『アルゴ』という名のSF映画をでっちあげ、CIA職員を映画スタッフに偽装させてイランに送り込みます。
しかし、救出方法はそれ以外にも数多くありました。
映画では、大使館員をカナダ人英語教師に偽装して出国させるというアイデアが紹介されています。
しかし、そもそもイランにいる英語教師が少ないことからボツになりました。
イランに派遣されたカナダ人栄養士への偽装や他のアメリカ人の人質解放に紛れて6人を出国させるという無謀な計画もあったようです。
そういう貧しい発想の救出案が積み重なったことで、ハリウッド映画をでっち上げるという突拍子もないアイデアが採用されたのかもしれません。
偽映画『アルゴ』の本採用には合理的な理由もある
6人のアメリカ人大使館員をハリウッド映画のクルーに仕立てるとは一見、大胆極まる作戦です。
しかし、そこには映画では触れられなかった合理的な理由もあります。まず大使館員は当然CIA職員のように偽装のプロではありません。
そこで一般人にも演じやすい映画人、かつアメリカ人と言葉遣いや見た目が近いカナダ人というチョイスになりました。
映画の撮影にも意味があります。当時イランでは政権転覆が起こったばかりの内乱状態にあり、観光収入が激減していました。
そのためイラン当局としてはハリウッド映画のロケ地になれば撮影代がもうかり、かつヒットすれば観光名所になると見た可能性もあります。
『アルゴ』は決してただの思いつきアイデアではないのです。
映画と実話の相違点
映画『アルゴ』と実話の大使館人質事件には数多くの相違点があります。まず中程度の違いについて見てゆきます。
サスペンスを盛り上げるための2つの演出
映画では映画クルーたちがイランのバザールでロケ撮影をします。しかし実際には、そんな危険なことはしませんでした。
それは緊迫感を高めるための演出だったといえます。またメンデスはイラン到着後CIAによってアルゴ計画の中止を言い渡されます。
しかし実際には彼がアメリカを発つ前に、当時のカーター大統領はすでにアルゴ計画に了承のサインをしていました。
カーターが新しいことに柔軟なリベラル派の大統領だったことも、アルゴ計画を後押しした大きな要因だったといえます。