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【犬神家の一族(ネタバレ)】遺言状に珠世の名を記した佐兵衛の意図を徹底考察!松子が遺産よりも欲しかった物は何だったのか

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B000KN99OU/cinema-notes-22

市川崑監督、石坂浩二主演による1976年公開の『犬神家の一族』はあまりにも有名な作品です。

入り組んだ構成と謎が観る者を一時も離してくれません。

そんな名作『犬神家の一族』の中で、なぜ佐兵衛は遺言状に珠世の名を残したのでしょうか。

そして、松子の本当に欲しかったものは遺産なのか……。

犯行の裏にある登場人物たちの本意に迫っていきます。

珠世の名を記した佐兵衛の意図

犬神家の一族

劇中に登場した全財産を野々宮珠世に与えるという遺言状……。

3人の娘たちを差し置いて、なぜ珠世は選ばれたのでしょうか。

野々宮珠世は佐兵衛の孫だった

劇中では入り組んだ設定に頭を悩ます人も多かったようですが、珠世が命の恩人の孫だから財産を全て渡す、というのは建前です。

「命の恩人」という言葉が、佐兵衛は義を重んじる律儀な人であると観客を見事にミスリードしています。

真実は珠世は愛すべき孫、遺産を全て珠世に渡すというのも納得のいく話ではないでしょうか。

納得のいかない遺言状

珠世が3か月以内に死んだ場合、犬神家の全財産は5等分され、5分の1ずつを佐清、佐武、佐智に与え、残りの5分の2は青山菊乃の息子・静馬に与える

引用:犬神家の一族/配給会社:東宝

上記は遺言状の一部です。

遺言状を観る限り生前より全く愛されず、遺言状にも全く名前の出てこない3人の娘たちの思いは計り知れないものがあります。

野々宮珠世は佐清、佐武、佐智の中から配偶者を選ぶこと

引用:犬神家の一族/配給会社:東宝

こちらも遺言状の一部ですが、配偶者の候補の中に静馬が出てきません。

なぜ静馬は配偶者になれないのかと疑問が浮かびますが、これは後に回収される「叔父だから」という現実の伏線となっています。

近親者の婚姻は法律で禁止されており、全ての関係性を理解している佐兵衛だからこそ残せた遺言状となります。

本作ではひとつの遺言状がすべてを紐解くカギになっているのです。

入り組んだ構成に頭を悩ませてしまったら、原点の遺言状に戻って観るとそのからくりが解けていくでしょう。

そして、この珠世中心の遺言状には実の孫だからという他にも深い理由が隠されています。

佐兵衛の歪んだ愛情が遺言状を生んだ

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劇中で佐兵衛は愛情を注いだ量に比例した額を相続させています。

本作に置いて、この遺言状が全ての元凶ともいえるものなのです。

なぜ3人の娘を冷遇したのか

晴世に義理を通し、他の愛人たちに愛情を注ごうとしなかった佐兵衛は観方を変えれば一途に晴世を思う男性とも感じます。

一途さゆえに愛人を邪険にしその娘までも邪険に扱ったのです。

ならば、愛人など作らなければよかったのに……、と思いますがそこは男の性なのでしょうか。

晴世への「愛と義理堅い思い」が珠世の名を刻んだ

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遺言状に珠世の名を刻んだのは、晴世を正妻として屋敷に呼べなかったという思いもあったことでしょう。

また珠世を家族として迎えられなかったという贖罪もあったのかもしれません。

本当に晴世を愛しており、その孫に愛情が傾いた結果ともいえます。

ひとつの愛が、他者を苦しめているということを佐兵衛は何とも思っていなかったのでしょうか。

憎悪にかられ悪役として描かれている3人の娘たちは、悲劇が生んだ可哀そうな女性たちといえます。

静馬に全財産を与えようとしていた

劇中で佐兵衛は、晩年彼が心から愛した女性(青山菊乃)に全財産を譲る段取りもしています。

佐兵衛の愛情は大きく歪んでおり彼自身が愛にうえていたかのような印象を受けます。

佐兵衛は戦争により孤児となっていますが、戦争という時代背景も歪んだ愛の原因になっているのでしょう。

本作のドロドロとした愛憎劇の裏には、戦争という大きなキーワードが隠されています。

深く考察していくと、戦争が愛の歪みを生み出した元凶となっているのです。

遺言状の公開時期

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遺言状の公開時期についても、佐兵衛の歪んだ愛が隠されています。

劇中で遺言状の公開を「佐清が復員した時」としていましたが、これは佐清を思ってのことではないでしょう。

おそらく佐兵衛は珠世が佐清と心を通わせていると気づいていたと考察出来ます。

また長男である佐清と結婚すれば、正式に珠世が犬神家の家族となれるのです。

だからこそ、佐清が復員するまでは遺言状の発表が止められていたというのが真実ではないでしょうか。

全ては珠世の為……、佐兵衛の愛は恐ろしいほど珠世に偏り、執着にも似た愛情を感じずにはいられません。

もしも本物の佐清が犬神家に復員していたら、連続殺人は起こらなかったことでしょう。

松子が遺産よりも欲しかった物

映画パンフレット 「犬神家の一族」監督 市川崑 出演 石坂浩二

なぜ松子は罪を犯してまで遺産を欲しがったのか、真意に隠されたものは財産ではなかったのです。

息子への愛

松子は元々自分の犯している殺害を隠蔽する気はなかったのではないでしょうか。

目的はただ一つ息子佐清に財産を継がせるためなのでしょう。

捨て身とも思える松子の行動にも、歪んだ愛を感じます。

自分が父親に愛されなかった分、息子には極上の愛をそそいだのです。

もしも松子がもっと早く静馬だと気がついていれば惨劇は起こらなかったかもしれません。

松子は自分が財産を欲しかったわけではない

松子が自分の為に財産を手に入れようとしていなかったことは、その行動に現れています。

それは静馬の正体を知り彼を殺すシーンです。

もし私利私欲のために殺人を起こしていたら、目の前に息子として存在する静馬を利用するはずです。

しかし松子の目的はあくまでも息子の佐清に財産を残しすことだったのでしょう。

歪んでいたとはいえ、母親としての強い愛が彼女の行動の原動力だったことは疑いようがありません。

原作に観る母の必死さ

劇中では白いゴムマスクをすっぽりと被っていた佐清でしたが、原作ではもっと佐清の顔に似せた仮面をかぶっています。

これは珠世の気持ちを繋ぎ留めておくためです。

珠世は見た目で佐清を好きになった訳ではありません。

しかし愛情を受けたことのない松子は、本当の愛を知らないのです。

佐清の見た目が変わったことで、珠世の愛は消えると心配したのでしょう。

しかし愛情を沢山受けて育った珠世は、人を愛するという本当の意味を知っていたのです。

松子が本当の愛を知っていれば、佐清に見せた珠世の態度から佐清が偽物であると気づけたかのしれません。

松子は父親佐兵衛に愛されたかった

【映画パンフレット】 『犬神家の一族』 監督:市川崑.出演:石坂浩二.松嶋菜々子.松坂慶子

松子は父親である佐兵衛に翻弄された女性のひとりです。

松子の狂気の下に隠された心はどんなものだったのでしょう。

珠世への殺意や菊子への恨み

松子は自分が受けられなかった父親の愛、その愛を一身に受けた珠世へ積もり積もった恨みが爆発した時もありました。

いいかえれば嫉妬心です。

菊子を屋敷から追い出したのも、きっと同じ気持ちだったのでしょう。

なぜ菊子が父親佐兵衛の愛を受けることが出来るのか、その嫉妬心は憎しみとなって菊子に浴びせられたのです。

松子は父に愛される珠世や菊子が羨ましくてしょうがなかったのではないでしょうか。

父の怨念からの解放

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佐清、珠世さんを父の怨念から解いておやり

引用:犬神家の一族/配給会社:東宝

松子は死の間際に上記のような母親らしい言葉を残しています。

父の怨念とは、松子に宿った狂気であり愛情の偏りがうんだ怨念ではないでしょうか。

死の間際に松子はこの怨念から解放されたのです。

そして彼女は自分がいくら求めても得られなかった愛情を息子に注ぎ、最後まで息子が愛されることを望んだのです。

更に自分が捕らわれていた「父の怨念」を自分の代で終わらせようとしたのでしょう。

愛されていたとはいえ、珠世もまた祖父である佐兵衛に振り回させたひとりなのです。

殺人者である松子は、悲劇のヒロインといってもいいのではないでしょうか。

愛情がテーマの金田一作品

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連続殺人というミステリーの影には、愛情不足というキーワードが隠されていました。

犬神家を舞台にした、複雑な人間関係や欲望や野望は観る者を十分に満足させてくれます。

全ての謎を解き明かしてから、作品を観返すと新たな発見が見つかるかもしれません。

何度観てもその巧妙な構成に驚かされる作品ではないでしょうか。