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【犬神家の一族(ネタバレ)】遺言状に珠世の名を記した佐兵衛の意図を徹底考察!松子が遺産よりも欲しかった物は何だったのか

出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B000KN99OU/cinema-notes-22

市川崑監督、石坂浩二主演による1976年公開の【犬神家の一族】。

本作は、横溝正史の名探偵・金田一耕助シリーズの同名小説を元にした作品。

「八つ墓村」と並んで映像化の回数が多いタイトルで、映画3本、テレビドラマ6作品が公開されています。

薬師丸ひろ子や原田知世といった女優を輩出し1980年代に一世を風靡した、いわゆる角川映画の記念すべき第1作でもあります。

依頼人の死から始まる連続殺人

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犬神佐兵衛翁の死・佐清の帰還

昭和22年、那須湖畔の邸宅にて、信州財界の大物・犬神佐兵衛(三國連太郎)が死去。

生涯に渡って正妻を持たなかった佐兵衛には母親の異なる3人の娘。

その娘たち松子(高峰三枝子)・竹子・梅子には、それぞれ佐清(あおい輝彦)・佐武・佐智という息子がいました。

遺言状は戦地にいる佐清の帰還後に発表されることになっていたため、一族は佐清の帰りを待ちわびていました。

しかし後日松子が伴ってきた佐清は顔に大きな怪我を負い、不気味なゴムマスクを被った姿で……

争いを生む遺言書

発表された遺言状の内容は、佐兵衛の恩人である野々宮大弐の孫娘・珠世(島田陽子)に全財産を相続させるというものでした。

ただし相続するためには、佐清・佐武・佐智のいずれかを配偶者にせよという条件がつけられています。

珠世が相続権を失ったり死去した場合は財産が5等分されます。

その場合は佐清・佐武・佐智が5分の1ずつ。

そして、5分の2を佐兵衛が50歳を過ぎてからできた愛人・青沼菊乃の息子である静馬が相続することと記されていました。

曲がりなりにも佐兵衛の娘である自分の名が、遺言状のどこにも書かれていないと知った3姉妹は皆、烈火のごとく激怒します。

強欲な3姉妹が次に考えるのは、「珠世を息子と結婚させる」もしくは「珠世を亡き者にして息子の取り分を死守する」ということ。

不穏な空気が漂います。

始まってしまった殺人の連鎖

悲劇の始まりをいち早く察知したのは、犬神家の顧問弁護士を務める法律事務所の所員・若林でした。

助力を求める手紙を若林から寄せられ、那須の地に東京から私立探偵・金田一耕助(石坂浩二)がやってきました。

しかし、彼が詳しく話を聞こうとした矢先に、若林は毒殺されてしまいます。

依頼人の突然の死に呆然とする金田一。

そこで、若林の雇い主にして犬神家の顧問弁護士である古館(小沢栄太郎)が引き続きこの件についての調査を依頼。

金田一は、犬神家の問題解決のために奔走しようと決意を固めます。

しかし金田一のいるそばで第2・第3・第4の殺人が行われてしまいます。

犬神家の家宝である菊・琴・斧に見立てられた佐武・佐智・佐清(実は静馬)の遺体が次々と発見されるのです。

それにしても、金田一は、どこかとぼけていて独特の味わいがあるキャラクターです。

ここで、名探偵・金田一耕助について触れたいと思います。

名探偵・金田一耕助

僕たちの好きな金田一耕助 (別冊宝島)

日本の三大名探偵

金田一耕助は、明智小五郎、神津恭介と並ぶ「日本の三大名探偵」と称されています。

西洋かぶれでキザな明智に、見目麗しい天才で非の打ち所がない神津。

彼らと比べると、ボサボサ髪の小柄な金田一は、見た目からするとやや貧相かもしれません。

しかし金田一は、その人懐っこい笑顔と親しみやすい雰囲気を武器に巧みに情報を集め、難事件を解決します。

三大探偵の中で最も人間味あふれる探偵といえそうです。

漫画作品にも影響

日本には名探偵が主人公の漫画作品も多数存在します。

刑事よりも自由に事件の真相解明に臨める「探偵」はフィクション作品のキャラクターとして魅力があるためでしょうか。

超人気作の『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』は、その代表格といってよいでしょう。

江戸川乱歩とコナン・ドイルから名前をもらった少年・江戸川コナンは、シャーロックホームズ並みの推理力を発揮します。

一方で、金田一一は「ジッチャン(=金田一耕助)の名にかけて」事件を解決します。

決め台詞のとおり、金田一一は金田一耕助の孫という設定。

本来はIQ180という超人的な頭脳を持ちながらも、なぜか学校の成績は最低で運動音痴。

そして可愛い女の子に弱い三枚目のキャラクターは、祖父の耕助とどこか通じるものがあります。

また、辺鄙な村や田舎の山荘、孤島のホテルといった閉ざされた空間で繰り広げられるおどろおどろしい連続殺人事件。

これらが、金田一耕助シリーズにインスパイアされたものであることは明白です。

並みいる俳優が演じた金田一耕助

金田一耕助―犬神家の一族・八つ墓村 (単行本コミックス)

金田一耕助は、横溝正史作品にたびたび登場する私立探偵です。

この役を映画やテレビドラマ、舞台で新旧さまざまな俳優が演じてきました。

石坂浩二のほかに金田一を演じたのは、片岡千恵蔵、高倉健、中尾彬、渥美清、古谷一行、

西田敏行、鹿賀丈史、愛川欽也、小野寺昭、中井貴一、豊川悦司、片岡鶴太郎、上川隆也、稲垣吾郎、

長谷川博己、吉岡秀隆、加藤シゲアキなどなど……。

「金田一耕助といえば?」と聞かれたら、複数作品で金田一を演じた石坂、古谷、稲垣を答える人が多いのではないでしょうか?

また、外見のイメージとして定着している、チューリップハットと着物の和装でトランクを提げている姿。

細かい設定の違いは多少あれども、原作に沿った和装の金田一が登場したのは1976年公開の本作が初めてでした。

実はそれ以前の金田一は洋装。映画作品で初めて登場したのは、1947年公開の『三本指の男(本陣殺人事件)』でした。

片岡千恵蔵演じる金田一はソフト帽にネクタイ、トレンチコートを身にまといピストルを振り回す、イメージが異なる姿です。

市川崑監督×石坂浩二

シネアスト 市川崑 (キネ旬ムック シネアスト)

市川崑監督×石坂浩二の金田一シリーズは6作品

石坂浩二が金田一耕助役を演じたのは、本作を含めて全部で6作品。

本作のほかには『悪魔の手毬唄』『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』『犬神家の一族(2006年版)』。

これらはすべて市川崑監督とのタッグによるものです。

「スズメの巣のようなボサボサ髪で顔立ちは至って平凡

「身長は5尺4寸(約163.6cm)、体重は14貫(約52kg)を割るほど貧相な体」……これらは原作の中での金田一耕助像です。

原作の表現からすると、公称177cmの長身で精悍な顔立ちの石坂浩二はかっこ良すぎるかもしれません。

ですが、興奮するとバリバリ頭を掻きまわしてフケを飛び散らせるクセなど、個性的な金田一を彼は見事に演じ切りました。

一方、本作は市川崑監督が初めて手掛けたミステリー作品です。

横溝正史の原作は、登場人物の血縁関係が複雑で、これをそのまま映像化しようとすると単調な説明シーンになりがちです。

そこを市川崑監督は、速いテンポの細かいカット割りで印象的に見せました。その演出はとても斬新でした。

また、おぞましいシーンの多い本作の中にも、ところどころにクスッと笑えるシーンを差し込むバランス感覚も絶妙です。

同タッグのリメイク版が2006年に公開

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本作公開の30年後にあたる2006年に、市川・石坂の同タッグによるリメイク版が公開されました。

ほとんどのキャストが交代となった中で、石坂のほかに大滝秀治も同じ役柄で出演しているのは特筆すべき点でしょう。

さらに、加藤武も名前が違うほぼ同じ役柄を、そして三條美紀と草笛光子が異なる役柄で新旧2作の出演を果たしています。

2008年に死去した市川監督にとって、このリメイク版が遺作となりました。

犬神佐兵衛の功罪

映画パンフレット 「犬神家の一族」監督 市川崑 出演 石坂浩二

話を本編に戻します。佐兵衛の遺言書の内容は、彼の生い立ちとその後の女性関係を考えれば、すんなり腑に落ちるものです。

野々宮大弐と佐兵衛

製薬会社で裸一貫から財を成した佐兵衛ですが、元は放浪の孤児でした。

17歳の頃、信州那須神社神官の野々宮大弐に拾われ養育されました。

大弐には晴世という美しい妻がいましたが、彼は女性に対しては不能で、男色家でした。

彼は、玉のような美少年であった佐兵衛と衆道の契りを交わし、彼を寵愛します。

その陰で、許されぬ愛が生まれていました。佐兵衛は大弐の妻・晴世とひそかに愛し合っていたのです。

日頃から晴世を不憫に思っていた大弐は、2人の仲に気付きながらもこれを黙認。

晴世は佐兵衛の子を身ごもりますが、大弐は自分の実子としてその子を養育します。

これが珠世の母・祝子です。つまり珠世は佐兵衛の実の孫なのです。

その後の佐兵衛

晴世を心の底から愛しながらも、大弐への恩義からそれを公にすることができない佐兵衛。

彼はその不満を解消するかのように次々と松子、梅子、竹子の母たちと関係を持ちましたが、そこに愛はありませんでした。

ところが佐兵衛は50歳を超えてから、若い女工の青沼菊乃を寵愛し囲うようになります。

その菊乃との間にできた男児が静馬でした。

静馬の恨み・松子の哀しみ

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青沼静馬に受け継がれた、母・菊乃の怨念

佐兵衛は菊乃に入れ込んだ挙句、彼女に犬神家の家宝の斧(ヨキ)・琴(コト)・菊(キク)を渡してしまいます。

そのことを知り激怒した松子・竹子・梅子の3姉妹は菊乃を襲撃。激しく折檻した末、無理やり3つの家宝を取り戻しました。

不本意な仕打ちを受けた菊乃は、3姉妹に「いまにその斧、琴、菊がおまえたちの身にむくいる」と恨みの言葉を放ったのです。

その恨み言は恐らく、物心ついた静馬にも繰り返し伝えられたのだと思います。

母から受け継いだ犬神家への恨みをはらす機会を狙っていた静馬。

彼は、ビルマから復員の際に松子の姿を見つけ、瞬時に佐清に成り代わることを思いついたのでしょう。

松子が佐武と佐智を殺害する現場に偶然居合わせた静馬は、事後にその遺体の生首を菊人形にすげ替えました。

また、遺体の首に琴の弦を巻き付けたりして見立て殺人に見せかけました。

これは母・菊乃の恨みを改めて3姉妹に突きつけたかったからにほかなりません。

ちなみに横溝正史の原作では、松子のお琴の先生(岸田今日子)の正体が青沼菊乃だったという設定があります。

映画版はそこまで描かれていないため、静馬は亡き母の遺志を継いで犬神家への復讐を誓ったのだと解釈してよさそうです。

佐兵衛翁の愛を継ぐもの

つまり佐兵衛翁は、自分が心から愛した晴世の孫娘・珠世に自分の全財産を与えたかったのです。

公の立場では、珠世はあくまでも野々宮大弐の孫。

彼女が佐清と心を通わせていると気づいた佐兵衛翁は、2人が結婚して正式に珠世が犬神家の家族となることを望んでいました。

だからこそ、佐清が復員するまでは遺言状の発表が止められていたのです。

ただ、佐清の戦死などで2人の結婚が叶わない場合、珠世を自由にしてやりたいという意志も、遺言状には表れていました。

ここで青沼静馬の名が記されたのは、一時は3つの家宝を与えようと思うまで寵愛した菊乃の息子であるからでしょう。

しかし菊乃は松子・竹子・梅子の折檻に遭い、贈与は叶いませんでした。

佐兵衛翁が3姉妹の名を遺言状のどこにも記さなかったのは、ある意味での意趣返しだった可能性も大いにあります。

佐兵衛の怨念・執念に操られた松子

若林、佐武、佐智、静馬の4人を殺したのは、3姉妹の長女・松子でした。

松子は、息子の佐清が珠世と心を通わせていることを知っていたはずです。

ですから本来なら佐兵衛の遺言に沿って佐清と珠世を結婚させ、順当にめでたしめでたしともなり得たわけです。

しかし悲劇は起きてしまいました。

  • 佐清と静馬の背格好が似ていた
  • 佐清が帰還するより前に、佐清に成り代わった静馬が松子に出会ってしまった

こんな2つの不幸な偶然。

「いくら想い合っているとはいえ、こんな恐ろしい顔になってしまった息子を珠世は選ばない」

そう思い詰めた松子は、財産狙いで珠世を我がものにしようとする配偶者候補の佐武と佐智の息の根を止めたのです。

佐武と佐智さえ亡き者にすれば、自分は捕まろうとどうなろうと構わないと言い切っていた松子。彼女の意思は相当なものです。

彼女が何を差し置いても欲しかったのは佐兵衛の財産云々ではなく息子・佐清の幸せだったことがわかります。

ただし、松子の行動は松子本人の意思だけでなく、抗いがたい大きな力に操られていたことも否定できません。

それはほかならぬ佐兵衛の怨念です。作中でもたびたび松子の前に現れては消えていました。

前述のとおり、50歳を過ぎてから寵愛した菊乃に対してひどい折檻をして重傷を負わせた3姉妹を佐兵衛は憎んでいたはずです。

そして、死ぬまで関係を公にできなかった自身と晴世の代わりに、孫娘の珠世を幸せにするという執念を持っていました。

そのすさまじい怨念と執念が松子を動かし、凄惨な殺人事件を繰り返させていたのではないでしょうか。

まとめ

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金田一によって松子は全ての真相を暴かれました。

静馬に脅されて死体遺棄の片棒を担がされていた佐清は逮捕されますが、情状酌量で罪は軽くなる可能性が高いでしょう。

珠世もそんな佐清が戻るのを待つと強く宣言。その目には、自信がみなぎっていました。

松子にはそんな珠世がまぶしく見えたに違いありません。

その自信を裏打ちするのは、佐兵衛から受けたまっすぐな愛だと思えるからです。

文字にすると月並みですが、やはり松子も父・佐兵衛の愛がほしかったのでしょう。

珠世の言葉を聞いて安堵の笑みを浮かべた松子は、若林に盛ったのと同じ毒を自身の煙草に混ぜて自害。

いまわの際にこんな言葉を残して……。

佐清、珠世さんを父の怨念から解いておやり

引用:映画「犬神家の一族」/配給会社:東宝