しかし彼の排他的な生き方は、ジェルソミーナによって少しずつ緩和されていったのでしょう。
男女の愛とは違った家族的な繋がりだと解釈することも出来ます。
天涯孤独のザンパノにとって、寝食を共にしいつも側を離れようとしないジェルソミーナは家族といっていい存在です。
無意識の愛情
彼女は私とだけ仕事をする
引用:道/配給会社:イタリフィルム / NCC
ザンパノのセリフは、一見するとジェルソミーナを所有物として見なしているようです。
しかし彼の心の奥に、彼女を他の男に渡したくないという思いが隠れているとも解釈出来ます。
劇中でジェルソミーナが見せる笑顔が印象的ですが、おそらく監督は意図して撮影しているのではないでしょうか。
この笑顔に孤独なザンパノは救われ、無意識のうちに彼女を愛していたとも考察できます。
もしザンパノがジェルソミーナに恋心を感じていたのなら、彼の不器用な愛はジェルソミーナに届くことがあったのでしょうか。
もしかしたら、ラストシーンで泣きじゃくったのは自分の愛を届けることが出来なかったという後悔の姿だったのかもしれません。
イル・マットが言い当てたザンパノの心境
イル・マットはライバルであるザンパノの心境を最も理解していた人物といえます。
オレなら一発でお前を捨ててしまう。恐らく惚れているんだ
ザンバノが?私に?
お前に話しかけたいのに、吼えることしか知らん
引用:道/配給会社:イタリフィルム / NCC
劇中で彼はザンパノがジェルソミーナに惚れていることを明言していました。
おそらくザンパノ自身も知らない彼の性分をしっかり見抜いているのでしょう。
イル・マットがいうように、ザンパノは自分の愛情に気がついていないばかりか、愛情をどう表現していいのかわからなかったのかもしれません。
ジェルソミーナへの愛ゆえの殺人?
ザンパノのジェルソミーナへの感情は、とても複雑であり単純です。
本気で人を愛したことのない彼にとっては理解できない感情だったのかもしれません。
イル・マットへ向けられた憎しみ
イル・マットがジェルソミーナに惹かれていたのは一目瞭然であり、ザンパノも気がついていたことでしょう。
元々仲が悪い二人ですが、ザンパノは彼女のことが引き金になり一方的にイル・マットに強い憎しみを感じていたのです。
しかしザンパノは憎しみの理由を明確に理解していたとは思えません。
彼の中で言葉に出来ない複雑な感情が、憎しみとなってイル・マットに向けられたのでしょう。
イル・マットへの劣等感
どんな物でも何かの役に立っている
この石ころだって
引用元:道/配給会社:イタリフィルム,NCC
上記は『道』で有名なセリフのひとつです。
人間を尊重する監督のスタイルを反映した言葉ですが、この言葉はイル・マットが投げかけています。
イル・マットはザンパノと対照的な描かれ方をしており、起用に人生を生きていける人物です。
ザンパノのような不器用な人物は決して嫌いではないけれど、無性にからかいたくなるのでしょう。
しかし、ザンパノにとっては自分が劣等感を感じる相手だったはずです。
ジェルソミーナが彼に取られてしまうかもしれないという不安が、怒りに変わったのかもしれません。
ザンパノの最大の過ちである殺人は、愛を把握できない不起用な心と劣等感から生み出された衝動的なものだったのです。