マギーは自らのボクシング人生に誇りを持っていました。
だからこそ相手の反則技で負けたうえ身体が動かなくなったことに対しても、マギーは一言も恨み言を言わなかったのです。
そしてボクサーとしての選手生命が終わった瞬間、夢もなくただ生きながらえるより、自分の誇りを守るために死を望んだのです。
アメリカで議論を巻き起こした尊厳死
マギーの「誇りを守るための死」は、アメリカの一部の団体から批判の声が相次ぎボイコット運動まで起きたのです。
そして、保守的なカトリックの団体からは、フランキーの尊厳死を手伝う行為が反発を招きました。
障がい者団体からは、全身マヒの人の生きる目的や権利についても抗議の声が上がりました。
それほどアメリカでデリケートな問題を、クリント・イーストウッド監督は描いたのです。
「モ・クシュラ」の意味
マギーのリングネームになった「モ・クシュラ」は、フランキーが渡したガウンの背中に刺繍されていました。
その意味はゲール語で「愛する人よ、お前は私の血だ」という意味だと、物語の最後で明かされます。
血とは人間が生きていくために必要な体の一部であり、また血族という言葉があるほど強い繋がりを意味します。
フランキーが「モ・クシュラ」のガウンをマギーに渡すことは、二人の絆が家族の絆と同等に深いことを表しています。
不器用な男として描かれているフランキーなりの愛情表現といえるでしょう。
最後のシーンのナレーションででてきた「ケイティ」とは
最後のシーンで、エディが「君のお父さんは」と語りかけるシーンがあります。
つまり、最後にナレーションで流れた「ケイティ」は、フランキーの実の娘のことなのです。
エディが語りかけながら手紙を書いているシーンがあります。
このことから一部では、エディは実はケイティと連絡を取っていたのではないかという意見があります。
驚きの制作秘話
驚異の制作期間と制作費用
『ミリオンダラー・ベイビー』はアカデミー賞で主要4部門を受賞し、アメリカでも1億ドルを超える興行収入を記録しました。
一般的に大作といわれる作品は、長い時間をかけて構想や脚本が作られ、そして多額の予算を注いで制作されます。
しかし、本作はなんと37日間という短期間で、それも3000万ドルという低予算で制作されたのです。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』が興行収入世界1位を記録する前にトップだった『アバター』の撮影期間は、10か月間で、製作費が2億3700万ドルでした。
『アバター』と比較すると『ミリオンダラー・ベイビー』の作品の撮影期間や予算がいかに驚異的かわかるでしょう。
『ミリオンダラー・ベイビー』の意味
本作のタイトルにもなっている『ミリオンダラー・ベイビー』とはどういう意味なのでしょうか。
「ミリオンダラー」は100万円、「ベイビー」には赤ん坊という意味の他に未熟者や女性への呼びかけの意味もあります。
つまり『ミリオンダラー・ベイビー』は「100万ドルの価値のある赤ん坊(わが子)・女性」「100万ドルの価値の金の卵」を意味しています。
これはフランキーがマギーに対してどう思っていたのか、ということをタイトルで表しているのです。
クリント・イーストウッドの作品
クリント・イーストウッドが監督、出演する作品は『ミリオンダラー・ベイビー』以外にも数多くあります。
本作のようにクリント・イーストウッドが監督兼主演を務め、彼の代表作ともいわれているのが『グラン・トリノ』です。