ハンナが読み書きのできないことを隠し通したのは、恥ずかしいという思いからだけではありません。
戦時中のドイツに置きざりにされた状態のハンナにとって、自分がロマ族だとばれることは迫害に繋がることだったのです。
文盲が招いた不幸
ハンナは文盲だった為に、職業を選択することが出来ずに戦犯になってしまいました。
そして文盲だった為に6人の罪をひとりで負わされました。
マイケルがユダヤ人の文盲支援の為にお金を寄付したのは、彼女のような無知による不幸を減らす為でしょう。
またマイケルの行動は、劇中で教授が示唆した「オデュッセイア」に繋がっています。
西洋文化の核となるのは秘密性だ
読者は行動を読み取って登場人物をイメージせねばならない
引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ロマ
マイケルはハンナの秘密を彼女の行動から読み取りました。
そして最後は、彼女が語らなかった思いを寄付という形で成し遂げたのです。
マイケルとハンナが示すもの
『愛を読む人』ではユダヤ人収容所という場所を違う視点から描いています。
ハンナは被害者だった
ハンナは戦争が生み出した被害者です。
社会を動かしているのは道徳ではなく法
問題は悪いことか?ではなく合法だったか?ということ
引用:愛を読む人/配給会社:ワインスタイン・カンパニー
劇中でドイツの戦争に対する考え方が描かれています。
裁かれるの法は、現在のものではなく当時の法によるもの
引用:愛を読む人/配給会社:ワインスタイン・カンパニー
教授の教えに当初マイケルは反感をあらわにしていますが、周囲には世間とはそういうものだという空気が流れていました。
この曖昧さこそが、ドイツがたどった歴史です。
ナチス党員が戦後に出世をしたり、人生を謳歌しているのは当時の法で裁かれなかった為というわけです。
一方ハンナは偶然生き残ったユダヤ人の原告がいた為に、牢獄で死んでいきました。
戦争の不条理を観る者に問いかけているようです。
マイケルは戦争を乗り越えていく未来
ハンナを愛したことすら恥ずかしいと思っているマイケルは、戦争に熱狂したドイツが戦争を恥ずべきものと認識している姿です。
しかし、どう向き合っていいのかわからない……。
ハンナの死は、戦争でひどいことをしたという事実を受け入れてもらえなかったことを意味しています。
しかし、時を経てマイケルは自分の娘にハンナの話をしていました。
戦争に傷を負いながらもなんとか乗り越えていく様子が、希望として描かれているように感じます。
戦後ドイツの姿をリアルに描いた作品
『愛を読む人』は、戦後ドイツの問題点をクローズアップした作品です。
ドイツは加害者という立場からどう立ち直っていくのか、マイケルの生き方がそれを象徴していました。
本作は異なる視点からみる戦争の姿です。