ヴィクトリアは赤い靴で成功後、様々な舞台でも成功を勝ち取ってきていた為に、自分はどこに行っても一流だと自負していました。
クラスターを選び、レルモントフの元を去ったとしても、他の劇団でバレエを踊り続けることができると思っていたのです。
自分にとってはどちらも大切で、両立できるものだと勘違いしていたのでしょう。しかし、現実は違いました。
最後、クラスターではなく、バレエを選ぼうとすれば身体はクラスターを求め、結果として命を落としてしまったのですから。
自分が強く求めるものだけを選択しなければならないということが、いかに大切かを観ている人にも教えているのかもしれません。
アンデルセン童話【赤い靴】から見えること
自分にとっては価値のある【赤い靴】への未練
童話の赤い靴では、貧しく靴も持たない少女カーレンに、赤い靴をつくってくれたおばあさんがいました。
実母が亡くなった時も、靴はその一足しかもっていなかったので、葬儀にも赤い靴で参列します。
その後養子となりますが、カーレンの中では赤い靴は特別で、履いて行ってはいけないと分かっている所へも赤い靴を選ぶのです。
どんなときでも、カーレンは物事と赤い靴を天秤にかけ、赤い靴を選んでしまっていたのです。
何度もカーレンは後悔したに違いないでしょう。赤い靴を選ばなければ、お母さんのそばにいれば…と考えても赤い靴を選んでいたのです。
育ての母を見捨てたカーレンへの呪い
義母が病に倒れても、カーレンは赤い靴を履いて舞踏会へとでかけてしまいます。
その後、赤い靴の呪いでずっと踊り続けることとなり、義母の葬儀に参列することさえできませんでした。
また、赤い靴はカーレンの思う方向とは別の方向に進みます。
家に帰ろうとしても、森や墓場にまで連れて行かれて踊り続けるのです。
これは、人としての道を外れ、自分の欲望に負けたカーレンへの戒めが含まれているのでしょう。
育ててくれた義母さえも失ったカーレンは自分の足ごと赤い靴を切り離します。
足首だけが踊り続け、カーレンの行く手を阻みます。死ぬまで赤い靴の呪いはカーレンにまとわりついたのです。
映画でも赤い靴が、ヴィクトリアが死ぬまでまとわりついたことは童話からの引用なのでしょう。
【赤い靴】は一体何を象徴しているのか?
赤い靴はその派手で可愛い見た目ゆえに人を魅了します。そして、周りさえも見えなくさせてしまうのです。
これは、ヴィクトリアにとってのバレエなのではないでしょうか。
小さい頃から踊り続けてきて、離れても忘れられず、もう一度戻ってしまう様はまさに赤い靴そのものです。
自分が選んだ相手であるクラスターと共に暮らし、平凡な主婦になるということを選ばずに、再び踊りたいと思うのです。
しかし、最後まで赤い靴とクラスターのどちらを選ぶかという葛藤が彼女を苦しめ死へと追い込みました。
赤い靴は童話の話同様、ヴィクトリアにとって大切なものであり価値のあるものだったのです。
そして、バレエも同じく、大切で彼女にはかけがえのないもので離れることのできないものでした。